ダイキの前職

「向こうの世界で、ダイキさんは何を?」




「フードライターです」



「まあ、美味しいお店とか回れて、うらやましいわ」


「いいえ、全然。社会面担当でした。アレルギー対策や食育、こども食堂の取材など、色々」


 舌が肥えていなかったせいである。

 ボクは大食漢だが、下戸で貧乏舌なのだ。

 なんでもおいしくいただけるのは、ありがたいけど。


「それで、お子さん向けの料理にお詳しかったのね」


「大層な物ではなくて。配属も、子どもに好かれていたという理由だけですし」


「立派だわ。子どもを大切になさっていらして」


 ありがとうございます、と返す。


「ネウロータくんの統治は、どんな感じですか?」


「あの子、言動はあんなだけど、周りをちゃんと見て人員配置しているわ。だらけ癖さえなければ、いい王様になるかも」


 咳払いをして、ボクは問いかける。


「えっと。聞きにくいんですけど、玉座って、王様と結婚するんですよね?」


「はい。私も最近知ったんだけれど」


「つまり、その。ネウロータくんのお嫁さんになるワケじゃないですか」


「……ああ、そういうこと?」


 どうやら、言わなくても察してくれたようだ。


「全然イヤじゃないわよ」

「それは分かります。ですから」


 なんで質問すればいいのだろう? 女性に聞くのは失礼だよなぁ。


「私も、夫婦らしいことなんて、まだしていないけれど、いずれはね」


 ボクの意図を察したのか、答えてくれた。


「いずれは、ですか?」

「うーん。今は想像すらできないけれど、ネウロータくんが興味を持ったら」

「そうですか」


 あんまりイメージできないなぁ。



 チサちゃんたちの様子はというと、もうすっかり打ち解けているようだ。本気で戦う方が、いいスキンシップになるみたい。


「でも、今は考えられないかな」

「どうしてです?」


 ボクが聞くと、トシコさんがボクの耳に口を近づけた。


「ここだけの話なんだけど。実はネウロータくん、私以外に玉座候補がいたみたいなの」




「本当ですか?」


 ネウロータくんは、浮気するタイプには見えないけど。


「私には気づかれてないと思っているみたいなのよね。時々、海を見つめて黄昏れていることがあるの」


 トシコさんが話しかけたら、我に返るらしいんだけど。


「本当はちゃんと、事情を聞きたい。私だって、色々なモノを捨てて玉座になるって決めたんだから。でも、ネウロータくんが話してくれるのを待つつもり」


 よいしょ、と、トシコさんが立ち上がる。 


「二人とも、ゴハンにしましょうか」


 トシコさんの一声で、トレーニングは終了した。

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