王たちの特訓

 次に、互いに武器を使ってターゲットを破壊する特訓を行う。

 さすがに、武器を人に向けるわけにはいかない。


 浮遊するドローン状のターゲットが、大量に襲いかかってくる。


「そりゃあ!」


 ボクは偃月刀の一振りで、大半を撃破した。 


「さすがね。では、私も」

 トシコさんの得物は、弓だ。弦を引き絞って、矢を放つ。


 撃った途端、弓が軌道を変える。ひとりでに進み、ターゲットを次々と貫く。動く標的相手に、見もしないで矢を当てる秘術は、アクション映画を思わせる。


「魔法で相手の動きを読み、矢を操作するの」


「すばらしいですね。映画を見ているみたいだ」


 ターゲットが全滅したので、ボクたちのトレーニングは終了した。


 続いて、チサちゃんとネウロータくんの特訓が始まる。

 二人とも白い胴着姿だ。


 チサちゃんが手から火球を大量に出す。手加減していたボクたちと違って、最初から全力を出していた。これが、魔族同士の戦いか。


 ネウロータくんの方も、ヘビの下半身を巧みに操って火球の雨をすり抜ける。カウンターに、指からツララの槍を撃つ。


 ツララを手で受け止めて、チサちゃんは肉弾戦に移る。


 ネウロータくんは、チサちゃんの連続攻撃を受け止め切れなくなってきた。


「やるな、チサ。こうなったら、ぼくも足を」


 容赦ない足技を、ネウロータくんは繰り出す。女の子相手でも手加減しない。トレーニングだから、ケガをするまではいかないだろう。

 チサちゃんも、遠慮を好まない性格だし。


 トレーニングルームというだけあり、タタミや部屋の壁は何一つダメージを受けていない。


「見ていなくていいぞ。話したいことは山ほどありそうだしな。ぼくたちは自由にやっているから」

「ダイキ、くつろいでて」


 魔王二人から、まさかの指示が下った。



 お言葉に甘えて、リラックスモードに。


 正座を崩して、ボクはあぐらをかく。


「こんなにリラックスするなんて、いつぶりかしら?」



 ウフフと、トシコさんが笑う。



「日本人の玉座とは、一度じっくりお話ししてみたかったのよ」

「ボクもなんですよ」


「日本がどうなってるかーなんて、分からないですよね?」


 ダメ元で聞いてみる。


 やはり、トシコさんは首を振るのみ。


「向こうに、さして愛着なかったから。ネウロータくんに拾われなかったら、引きこもっていたわ。誰とも会わず、ずっと家で絵を描いて生計を立てていたでしょうね」


 イラスト投稿サイトにも登録しており、トシコさんはフォロワーから月額料金をもらっていた。しかし、商業で活動するには力が足りず。


 日本を「向こう」といえるあたり、トシコさんの複雑な事情がうかがえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る