玉座同士で組み手

 まずは素手で組み手をする。


 ただ、異性同士なのでどうしても手加減をしてしまう。モンスター相手なら、容赦しないんだけどね。


 業を煮やしたトシコさんが、投げに転換した。ボクの手首を軽く掴む。


 フワリ、とボクの身体が宙に浮く。柔術か。


 だが、スキル『黒龍拳』が、何をすべきかを教えてくれる。ボクは宙返りをして、畳の上に着地した。


 そこを狙われる。下段回し蹴りで足を刈り取られた。


「ステータスやスキルだけに頼ってちゃ、ダメってコトか!」

「これぞ『白鯨拳・壱の太刀、漣』です」


 白鯨拳なんてスキルがあるのか。ボクの黒龍拳はボクだけのスキルみたいだし、他の玉座も、特殊スキルを持っているのかも。


「ダイキさん、スキあり!」


 白い腕から、正拳突きが繰り出された。これは負けかも。


「ファイト、ダイキ」

 チサちゃんのひと言で、ボクは息を吹き返す。


「あら?」


 ボクが視界から消えたから、トシコさんが首をかしげていた。


 トシコさんの腰を抱えて、ボクは大きく仰け反る。


「えいっ」

 盛大に、バックドロップを見舞った。


「おっと」

 ネウロータくんが、クッション用のマットを召喚する。


 ポテ、と、トシコさんの背中が、布団並みに柔らかいマットに沈む。


「ボクの勝ち、でしょうか?」

「はい。お見事でした」


 ボクは、トシコさんに手を貸して、起こす。


 大人の女性なんて、始めて抱きしめたな。

 LOに抱きつかれたことはあったけど、あれは拘束だったし。


 でも、不思議だ。ちっともドキドキしなかった。トシコさんと接近しても、なんとも思わない。


 ネウロータくんと交際しているというのもあるけど、ボクはやはり、チサちゃんが。


「投げに移行してから、動きがスムーズだったわ。なにかなさっていらして?」

「大学時代、プロレス同好会でした」


 身体がデカイからと、誘われたのだ。組み手より、もっぱらパフォーマンスメインだったけど。


「私、根がインドアだから、応用が利かなくて。やっぱり男の人に勝つのは難しいかも」


「いえ、スキルに依存していたので、ボクは負けていました」

 手をブンブンと振って、ボクは謙遜する。


「でも持ち直したわ」

「チサちゃんの応援がなければ、勝てなかったでしょう」

「素敵な絆ね」

「いえいえ。トシコさんたちだって」


 ネウロータくんはずっと、トシコさんの動きに目をこらしていた。トレーニングとはいえ、真剣に。

 もっとヤジを飛ばすかと思った。


 それだけ、トシコさんに絶対の信頼を寄せているのだろう。


「あんまりくっつくなよー」

「おっと」


 ネウロータくんに指摘され、ボクはトシコさんから離れた。

 日本人なんて久しぶりに会ったから、人恋しくなっている。

 故郷のよしみというやつかな。

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