トレーニング

「どうしてこんなところに?」

「視察だよ。お前たちの世界がどんなことになっているか。賑やかな街じゃないか」


 ネウロータくんはシッポを振りながら、お風呂を堪能している。


 さすがに、トシコさんは身体にバスタオルを巻いていた。当然だよね。それにしても、大きい。どことは言わないが。


「ウチの玉座のこと、あんまり見るなよ」


「別に裸を見られたくらい、どうってことないわよ」

 トシコさんは、なぜか豪胆だ。


「今日はバトルに来た?」

「違うね。ただの療養だ。戦うつもりはないぞ」

 チサちゃんの質問に、ネウロータくんは首を振った。


「でも、そうだな。トレーニングでもするか?」


 このゴマトマ城には、道場があるんだっけ。


「ボクたちは、そこでドワーフたちと汗を流した後に、この風呂を使わせてもらっているんだ」


 そういうことだったのか。


「ひとまず、お手合わせ願えます?」

 遠慮がちに、トシコさんが尋ねてくる。

 

 確かに、玉座同士っていっても、本格的に戦ったことはなかったっけ。バトルする機会はあったけど、あれは料理対決だったし。


「軽めでお願いできれば」


「もちろんですわ。でも、もう一度お風呂に入ることになるわね」


 トシコさんが渋っていると、チサちゃんが両手を挙げた。


「構わない。ご一緒させて」

「ボクも!」

 疲れが一気に吹き飛ぶ。


「吠え面かいても知らないぞ!」

 ネウロータくんだけが、妙に噛み付いてきた。


 お風呂から上がって、ボクたちはトレーニングウェアに着替える。といっても、いつもの着ぐるみだけど。


「これ、全然暑さを感じないね」

「体温調節は万全。玉座の装備だから、ダイキにはちゃんと着ていてもらいたい」


 他にも、寝ているだけで勝手に洗浄する機能まで付いている。

 だから、毎日着たきりでも匂わない。


「ありがとうチサちゃん。新装備も、期待しているからね」

「ぬかりはない」


 チサちゃんが、ドンと胸を張る。


「ではよろしく」


 トシコさんの道着は、ビキニアーマーだ。

 いつもの割烹着ではない。


 コンセプトはビキニだが、流行していた八〇年代から随分と進化している。腕までカバーする手甲やニーソ風の具足など、趣向が凝らしてある。


「見事ですね」

「ウフフ。本職がイラストレーターだから、本気を出したの」


 いや、プロポーションのことを、口にしてしまっただけなんだけど。


 さっきお風呂に入っていたから知ったけど、相当に主張している。線は細く、全体的に引き締まっていた。本当にインドア職だったのか疑わしい。


「ネ、ネウロータくんに作ってもらったんじゃないんですね?」


 どうにかごまかす。


「素材だけは大量に余っていたから、吟味して装備に活用したの。自分で着る服だから、自分でデザインしたいなって」


「各装甲の拘りが凄いです」

「ウフフ、ありがと」


 やっぱりファンタジーの衣装って、人任せだとロクなコトにならないんだな。


 今度、自分でも提案してみようかな。センスないけど。

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