ヌシの誇り
「海賊退治の件、本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいのやら」
ビントバー王を先頭に、宮殿の廊下を歩く。
中央に庭園があって、四角い石柱から噴水が流れていた。噴水の中では、子どもの人魚たちが遊んでいた。この宮殿は、学校も兼ねているのだとか。
「お父様は、魔力を持つ貝や珊瑚をマジックアイテムとして販売して財を築いて、今ではリゾート開発まで行っていますの。わたしも、お手伝いを」
ベルガさん自慢の父親なのだそうだ。
「がっかりさせてしまって、申し訳ない。魔王サマ」
自分の小ささのことを言っているのだろう。ビントバー王はチサちゃんに詫びる。
「利便性を求めて、移動要塞にしたのがいけなかったのでしょうな。ヌシは大型の魔物に違いないとのウワサだけが広まってしまい。それ以降、この姿を人前に見せるのが恥ずかしくなってしまって」
ヌシ様が、苦笑いを浮かべた。
あの『
だが、ヌシ様は表舞台に顔を出しづらくなってしまったという。
「まったく問題ない。コンプレックスなんて、誰にでもある」
魔王らしく、チサちゃんは威厳のある言葉を投げた。
「あなたからは、尋常ならざる気迫を感じる。あなたは街をこれだけ大きくした。しかも移動の要素まで。その姿に、人々が街そのものをヌシと誤認した」
自分より背の低いヌシを、チサちゃんは偉大だと語る。
ボクもそう思う。器量の良さって、身体の大きさじゃないよね。
「ありがたきお言葉、是非とも、ビントバーの街を領土としてお収めくださいませ」
「街のことは、全面的にあなたに委ねる。わたしは世界を豊かにはしたいが、支配したいわけではないので」
「ほほう」と、ヌシ様が関心を示す。
「今までの魔王サマは、街の発展に色々と口を出すモノかとばかり。いやはや、お気を悪くなさらず。周囲から、そう聞いておりましたので」
恐縮しながら、ヌシ様は告げた。
「わたしは、街の政治や考えに詳しくない。街のことは街の人が考えるべき。わたしは、街が手に負えないトラブルを解決するのみ」
「ありがたきお言葉、是非ご助力いただきたい事案がございます。海賊の件も、その一つだったのですが」
振り返って、ヌシ様が深々と頭を下げる。
「聞かせてもらいたい」
「はい。ですが、その前に宴をご用意致します。その後でじっくりと」
ボクたちは、宴会場へ招かれた。
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