幽霊船、撃沈!

 それでも、圧倒的に不利な状況を、ベルガさんは一気に解決した。


「ダイキ、敵の数が多すぎる」

「そうだね。どこからでも湧いてきているみたい」


 だが、待てよ? もしかして。


「ひょっとしたら、このモンスターたちが、幽霊船の正体なんじゃないかな?」



 大昔、小学校時代に「魚群が大きな魚に化けて、サメをやりすごす」という絵本を読んだことがある。


 もしかすると、このモンスターの群れこそが一隻の船に化けているのではないか?


 そんな疑問がボクに浮かんだ。



 怪物たちは、密集しながらボクたちを襲ってきていた。まるで、エサに群がる魚たちのように。


 中を見たらガラ空きなのに、幽霊船は外から見ると立派な船に見える。魚が群れを成しているから。

 

 何か、モンスターを引き寄せるアイテムがあるのではないだろうか。



「チサちゃん、周囲を警戒していて。ボクがチサちゃんを守るから」

「承知。弱点を探す」


 役割を分担して、ボクたちは船の弱点を探すことに。


「ベルガさんは引き続き、海賊を追っ払ってください」

「お願いします。バブルリング!」


 バブルリングを作り出し、ベルガさんがモンスターたちを周囲から突き放す。


「あった! ダイキ、帆の上!」

 チサちゃんが帆を指さした。


 帆の上を見ると、ドクロが突き刺さっている。ドクロから怪しい紫の光を放っていた。その波動に引き寄せられるかのように、魔物たちは集まっている。


「ダイキ、浮上して!」

 チサちゃんの合図に、ボクは一気に海面へと上がった。


「お手伝いします! バブルリング!」

 ベルガさんがバブルリングの海流を操って、ボクの背中をグンと押す。


 ロケットのように、ボクは海面高く打ち上がった。


「くらえ、『黒龍拳』!」

 全力を込めて、ボクは偃月刀を振り上げる。


「おっと!」

「なにいっ!?」


 黒龍拳が避けられた。


 帆の正体は、長い一角を持つ大きなイルカのモンスターだったのである。 


 ドクロを引っかけたイルカが、海へと逃げていく。


「ダイキ、あのイルカもアンデッド」



「ベルガさんを突き刺そうとしているよ!」

 急降下したドクロの真下には、無防備のベルガさんが。


「危ない!」

 だが、ベルガさんは冷静に、胸の前に手をかざす。


「バブルリング!」

 ベルガさんが、超特大のバブルリングを打ちだした。


「ぐへえ!」

 海に潜ろうとしたイルカが、空気圧によって押しつぶされる。


 水柱が上がり、ボクたちに向かってきた。


 これなら逃がさない。

「黒龍拳!」 



 だが、またしても水流を利用して、ガイコツイルカはボクの攻撃を避けようとした。


「ダイキ、踏ん張って!」


 何を思ったのか。チサちゃんが玉座から飛び上がる。





「黒龍拳、二の太刀!」

 両足を曲げて、チサちゃんはボクの偃月刀にドロップキックを浴びせた。





 ボクの偃月刀が、攻撃の角度を九〇度変える。


 今度こそ、ガイコツにヒットさせた。


「水もしたたる、いいモンスタアアアアアアッ!」


 砕けたガイコツが、断末魔の叫びを上げる。


 強力な負の気配は消え去り、霧が晴れていく。




「ん?」







 沈み行く船の上に、人影が見えた。長い髪の少女のようだが。





「あれ、あそこに誰かいる?」


「え?」

 チサちゃんに確認してもらったが、首をかしげるばかり。



「どこにです?」

 ベルガさんにも、影は見えなかったようだ。




「いるよ! あそ、こ、に」

 もう一度確かめてみたけど、もうそこに誰もいなかった。




 あれは、誰だったんだろう? もしかして、まだ幽霊がいるのでは。

 しかし、霧が完全に晴れていき、確認しようもない。

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