幽霊船の正体

「船底に入り口がございます。魔法で呼吸ができるように致しますわ」


 ベルガさんが、ボクとチサちゃんの顔に泡を被せる。


「これで、海の中でも酸素を保持できますわ。こちらへ」

 先にベルガさんが飛び込む。


「行ってきます。みんな待ってて!」


 ボクはチサちゃんと、海へダイブした。


「けっ、わざわざ死にに来たのかよぉ。くらえ!」

 海賊船の船底が開き、クジラの口のように開く。


「あの中へ飛び込んで下さい!」

「そんなコト言ったって!」




 こんなの、聞いてないよーっ!




「わああああああ!」




 ボクたち三人は、ゴーストシップに食べられてしまった。



 そのままの勢いで、体内へなだれ込む。



 よかった、誰も溺れていない。三人とも無事である。


「大丈夫、チサちゃん?」


 海の中だけど、魔法のおかげで会話もできた。


 ボクのお腹に張り付いたままのチサちゃんも、特にケガはしていない。


「うへえ、なんだか、生温かいね」


 幽霊船と行っても、モンスターなのか、妙な温かみがあった。


 どうやら、海の底のようである。ベルガさんに魔法を掛けてもらっていてよかったかも。もし息継ぎ魔法がなければ、ボクたちは溺れ死んでいた。


 泳ぎながら、前へ進む。海賊船の中は、がらんどうだ。


 一応、元々は軍用の船だったようである。


 けど、内装は何もなかった。どうりで、何も攻撃が通じなかったはずである。幽霊船は見た目だけで、ハリボテらしい。


「この幽霊船って、毎回襲ってくるんですか?」


 ベルガさんは首を振った。


「いいえ。ビントバーは本来、争いのない国です。よく言えば地域密着型、悪くいえば保守的で閉鎖的ですね」


 伝統を重んじていて、よその国ともあまり交流したがらない。外部との接触も、ズースミック程度だという。


「ワタシはたまに街を抜け出しては、ズースミックの街をお散歩したりしていました」


 ところが、最近になって海賊が海を荒らすようになってきた。交易船を襲うようになったのだ。


「ビントバーを直接狙ってきたのは、今回が初めてです。ズースミックに調査を依頼したんですが、おそらくは」


 沈められたか。

 ボクたちが来たのは、よかったのかも知れない。


「来ます!」


 海洋生物に手足の付いたモンスターが、攻めてくる。

 ボクは偃月刀を振り回し、チサちゃんが魔法を撃つ。


「海賊も出てきました! 『バブルリング』!」


 ベルガさんも、魔法を使って海流を操った。


 海底にいた海賊船が、渦に巻き込まれて吹き飛ぶ。たしか、離岸流ってヤツかな。バブルリングを作って、離岸流を作っているんだ。


「すごいです、ベルガさん」

「でも、戦闘魔法はこれくらいしか」

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