海賊退治の依頼

「ボクは、玉座です。オサナイ・ダイキと言いまして」



 だんだん、ベルガさんの表情が青ざめていった。



「まあ。魔王様に玉座様とは。話しかけてよかったのかしら」



「気にしない。世界が困っているなら、助けるのが魔王の勤め」

 毅然とした態度で、チサちゃんは胸を張る。


「ズースミックに用事があるのでしょう? とにかく話して下さい。力になります」

 ボクたちは、ズースミックの街まで戻ることにした。


「歩けますか? なんなら負ぶさってください」


「ご安心ください。お気遣いなく」


 言うと、ベルガさんの下半身が、パレオをつけた人間の姿になる。


「一時的ですが、人の形をマネできるますの」

「そうだったんですね。では、街まで行きましょうか」




 街へ入ると、みんながベルガさんに注目していた。

 モデル並みの美人さんだからか、男性から視線の的になっている。


「お恥ずかしいですわね」

「港まで、行きましょう。あっちに行けば、女性客ばかりだから静かでしょう」



 港が見えるカフェで、話を聞くことに。オシャレなデートスポットだけあって、単独での利用者は女性が多い。



「さあ、ここなら視線も気にならないでしょう。話してください」

 ボクは、ベルガさんに話を促す。


 けど、ベルガさんは話を切り出さない。


 海鳥の鳴き声と、波の音だけが鳴り響く。


「みなさん、お気遣いなく。魔王サマの御手を患わせるわけには。冒険者ギルドにお任せしますので、どうか」

「こういうの好きなんですよ。チサちゃんは」


 実際、チサちゃんはワクワクした顔でベルガさんが話すのを待っていた。


「報酬とかは気にしなくていい。街を守るのは魔王の義務。それに魔王からすれば、冒険はむしろ趣味と言っていい。わたしは冒険がしたい。それが、魔王にとって何よりの報酬」


「そういうことでしたら」


 チサちゃんの説得により、ようやくベルガさんが語り始める。


「私たち人魚族は、ズースミックと交易していたのです。それが最近になって、航路に海賊の一団が現れまして」


 迂回して人間の街まで行かねばならず、困っているという。


「このままでは、航路が海賊で溢れてしまいます」

「それで、冒険者ギルドまで」

「ズースミックに応援に向かおうとしました。大人数だと街を守る人手がいなくなるので、私一人で」


 ところが、ズースミック目前の道中で、海賊に見つかってしまった。積み荷も報酬の品も、食事すら落としてしまって、命からがら逃げてきたという。


 チサちゃんが立ち上がる。


「仲間を集める」


 きっとチサちゃんなら、一人でも殲滅は可能だ。けれど、相手が海賊なら数が多いかも知れない。人出は多い方がいいだろう。


「せっかくだから、みんなを呼んで話を聞く」

「そうだね。放っておけない」

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