人魚姫のSOS

「あなたたちのゴハンを食べてしまって、ごめんなさい」

 人魚さんは、しきりにペコペコと謝る。


「お気になさらず。落としてしまったので」


「お腹が空いているなら、どうぞ」

 チサちゃんが、残りのお弁当を差し出す。


「何から何まで。では遠慮なく」

 あっという間に、人魚さんはお弁当を食べてしまった。


「ありがとうございます。すいません。ホタテやエビで食べつないでいたのですが、食いしん坊なモノで」


 ある程度お腹が落ち着いたところで、人魚さんが挨拶をした。


「ワタシ、ベルガと言います。見ておわかりの通り、人魚族です」


 控えめな胸を、ベルガさんは貝殻ビキニで覆っている。サイズはオンコとエィハスの間くらいか。背はモデル並みに高い。ウェーブのかかった髪には、やりがいの装飾品が。

 どことなく、高貴な雰囲気が漂う。


「もしよろしければ、我々の街へどうぞ。ご案内しますわ」

「人魚の街があるので?」

「はい。ビントバーの街と言います。ごちそうとはいきませんが、お休みいただけるかと」


 聞くところによると、珊瑚で覆われた島国だという。

 魚の鱗や貝殻の装備品が売りで、珊瑚の化石やパールなどの宝石でも生計を立てている。


「ビントバー産のパールは、マジックアイテムとしても重宝されています。冒険者さんには、ひいきにしていただいていまして」

「楽しそうだなぁ。ありがとうございます。ぜひ、寄らせて下さい」


 ただ、ボクたちはヌシを釣りに来たのだ。

 寄り道していいのか?


「ヌシの情報はある?」

「まあ、父をお釣りにいらしたのですね?」


 え、ベルガさんのお父さんだったの?


「ワタシは、ヌシの娘です」

「ヌシの子どもさん! わたしはチサ、よろしく!」

「よろしくお願いしますわ」


 チサちゃんが、ベルガさんと抱き合う。


「けれど、今ビントバーは混乱していますし。何で返せばいいのか。こちらには用事で参りましたし」

「ベルガさんは、ここに何をしに?」



「ズースミックの冒険者ギルドに、救援を要請しようとしていたのです。ビントバーをお救いいただきたく」




 何か、物騒な単語が出てきたぞ。



「よければ話して下さい」

「実は……!?」


 ベルガさんが話そうとした矢先、弓矢が岩に突き刺さった。


 海の向こうから、漁船サイズの船がこちらに向かってくる。船尾に、ドクロマークの旗が幟っていた。


「ヒーハーッ! 見つけたぜ人魚の嬢ちゃん!」


 小型船から、海賊らしき風貌の男たちが姿を現す。水兵のような姿をしているが、耳にヒレがある。


「ベルガさん、彼らは?」


「海賊です。ワタシを追ってきたんだわ。皆さん逃げて!」


 必死に訴えかけるベルガさんの手を、ボクは振りほどく。


「ここは任せて」と、チサちゃんはベルガさんをかばうようにして立つ。


「なんだ? 妙な格好のヤツらを連れているぜ。コスプレか?」

「なんでもいいぜ。やっちまえ!」


 海賊たちが、ボクたちに矢を放った。


「任せて!」


 ボクはスコップを回転させて、矢を打ち落とす。


 チサちゃんは無詠唱で、大玉転がしの玉くらいの火球を杖から放った。海賊船を火球で焼き払う。



「ギハーッ! 覚えてろーッ!」

 海賊たちは断末魔の叫びを上げて、吹っ飛ぶ。



 水柱を揚げて、海賊船は沈んでいった。


 弱い人を痛めつける輩に、チサちゃんは容赦しない。


「あの、皆様はどういったご関係で? 釣り人のようには見せませんが」


 ベルガさんは、困惑した顔になる。



「魔王。チサ・ス・ギル」

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