釣れた……かも!

「どれが欲しいかは、ハッキリしてもいい。テレビゲームが欲しいなら分けてもらう。食べたいモノがあれば、用意する。わたしは助けてもらっているんだから」


 少し心配げに、チサちゃんはまくしたてた。


 そこまで不安にさせていたのか。


「気を使ってくれてありがとう、チサちゃん。でもね、ボクはこの世界に来られただけで満足なんだ」


 毎日のように、新しい発見があって、刺激もある。それでいて、心地よい。なにより、何もないボクを迎え入れてくれた。


「ボクは、チサちゃんの側にいるだけでいいんだ。ボクが欲しいとしたら、それはチサちゃんだなぁ」


 チサちゃんが、ボクのお腹に頭を置く。


「あ、ごめん。いきなりだったね。忘れて」


 何を言っているんだ、ボクは。

 いくらチサちゃんがボクに優しいからって、調子に乗りすぎだろ。


 ボクが謝ると、チサちゃんは首を振った。


「ありがと、ダイキ」

 穢れのない瞳で、チサちゃんがボクを見ている。


「さ、さて、ゴハンを……あっ!」


 急に照れくさくなって、お弁当に手を伸ばす。だが、足場が悪いところで食べたのが行けなかったのか、ボクはおにぎりを落っことしてしまう。


 おにぎりは、海にドボンと沈んでいく。


 せっかく、チサちゃんが握ってくれたのに。


「ゴメンチサちゃん」

「いい。あのおにぎりは魚のエサになって、わたしたちの竿に帰ってくる」

「お弁当で釣れたら、シャレにならないね」


「これで釣れたら苦労はない」

 チサちゃんも、本気で思っているのではないらしい。


「エサを変える?」


 ボクが言いかけると、竿がピクリと動いた。

 やっと竿に魚がヒットしたみたい。


「うわわ。まだエビしかつけてないよ!」


 ヌシの好物って、エビだったの?


「ダイキ、網!」

「よしきた!」


 ボクは網を掴んで、獲物を獲る準備をする


 竿が、ビクンと跳ね上がった。


「さすがに魔法で強化した竿でも、限界かも!」


 魚を誘導しながら、チサちゃんは踏ん張る。


 竿が折れんばかりにしなる。


 ボクはチサちゃんの後ろに回って、腰を持つ。少しでもバランスを維持得きるように。


「しっかり」

「もう少しガマン」


 魚の頭が見えてきた。


 大きい。人間サイズくらいはあるのでは。

 

 チサちゃんが、一気に竿を引き揚げる。


「釣れた! ってえええええええええええ!?」


 全貌を現した魚が、海面に飛び上がった。上が貝殻ビキニをつけた女性で、下半分が魚のヒレを持っている。


 あまりの驚愕な事実に、ボクとチサちゃんは呆然とした。


 糸をしっかりと咥えた、貝殻ビキニの女性と目が合う。


 釣れたのは、人魚だった。

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