ヌシ釣り

 翌朝、ボクたちは再びビーチへ。


 海水浴場ではなく、岩場である。


「ここでいいかな」


 ボクたちは、座りやすいポイントに腰掛ける。


 当然、チサちゃんはボクのヒザに。


「エサといっても、ヌシって何を食べるのかな?」


 異世界に、ルアーなんてないもんね。海のヌシレベルが相手なら、偽物のエサなんかに食いつくわけがないし。


 竿だって、本格的な仕掛けじゃない。リールすらない竹の竿で、本当に魚が釣れるだろうか。プロのアングラーや、猟師のようなスキルもないのに。


「竿や針、糸は大丈夫。魔法で強化しているから。問題はエサだけ」


 入れ食いの魔法なんて便利なスキルはなく、実際にエサを使って魚を誘うしかない。


「先に小さい魚を釣って、それでおびき寄せる」


 正攻法でいくことにした。



 ボクは、エサの小エビを釣り針に取り付ける。



「準備できたよ」

「投下」


 チサちゃんが、釣り糸を海面に放った。あとは、魚がエサに掛かってくれるのを願うばかり。


 何も反応がない。


 ただじっと、手に当たりが来るのを待つ。


 釣りは、この状態が辛い。


 目を擦りながら、チサちゃんがあくびをかみ殺している。昨日に引き続き、朝が早かったからだろう。


「お弁当にする」


 あまりに退屈したのか、チサちゃんが気分転換を提案してきた。


「そうだね。もうお昼だし」


 ボクも賛成し、バスケットを広げる。


 今日は、お弁当を持ってきていた。


 セイさんやメイドさんが作ったわけではない。


 ボクたちで作ったのだ。


 チサちゃんは「花嫁修業」とか言っていたけど。


 おにぎりやサンドイッチが、バスケットに並んでいる。形が歪なのはご愛敬だ。


「いただきます」


 お弁当を食べたからか、幾分かチサちゃんが機嫌を取り戻す。


「この梅干し美味しいね」


 この世界に来て、お弁当までもらえて、おまけに日本食である。本当に異世界なのか分からないね。


「それは、魔王から得た収穫。ダイキが欲しそうにしていたから」


 チサちゃんの土地は甘いものが主体だったから、塩気が欲しかったのだ。


「ありがとう。ボクのワガママに応えてくれて」


 けれど、チサちゃんは首を振る。



「ダイキは自分の要求がなさ過ぎる。もっと自己主張していい。でないと、わたしもどうやって発展させていいか、分からないときがある」


 ボクを心配してくれているんだなぁ。


 とはいえ、玉座の提案を受けすぎて、滅びてしまった街も多いと聞く。


 どれくらいのバランスで、ボクはアドバイスをすればいいのだろう。


 玉座として、ボクはあまりにも無知だ。

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