ヌシ、撮影快調

「階層が上がったことで、リミッターが解除された」


 チサちゃんによると、ボクには今までの戦闘でも、経験値が手に入っているらしい。その分が加算されたのでは、という。


 でも、レベル九九以上なんて。未知の数字だぞ。


「その調子でジャンジャンレベルを上げていってよ。じゃあ」


 今度こそ、ボクたちはギルドを後にする。


 緊張から解放されたせいか、チサちゃんのお腹が鳴った。

 朝が早すぎたもんね。


「じゃあ、お茶にしよう」


 まだ昼ごはんには早い。軽めのブランチにする。


「何があるんだろう? あ、あそこなんてどう?」


 ボクが提案したのは、ココナッツの屋台だ。

 売っているのは、熟していない緑色のココナッツである。

 先をナタで切り落とし、中の水分を飲むワイルドなスタイルだ。

 この世界にはストローが普及していないから、仕方がない。


「面白い!」

 チサちゃんもはしゃいでいる。


 ヤシの実ジュースなんて、食べたことがない。いかにも南国なスイーツだ。


 ボクたちは二つ頼んで、手に持ちながら食べ歩く。

 

 すごく甘い。ホンモノって食べたことないけど、だいたいこんな味なのかな。見た目はココナッツだから、合っているんだろうけど。


 他にも、切り売りされているパイナップル、間にイチゴを挟んだ平たいお餅など、フルーツメインの屋台を回った。


「あ、あれって!」


 たこ焼きまである。これは買いだ。六個入りを買って、ベンチでチサちゃんと食べる。


 まるで縁日だな。


「今日ってお祭りなの?」

「違う。この市場は毎日こんな感じらしい」


 ボクたちがエリア解放する以前から、この街は存在するという。解放したからボクたちも辿り着けただけで。

 ただ、いいことばかりではない。


「冒険者ギルドにも、海底にいる大型モンスターを討伐する依頼があった」


 おそらく、そいつが二層のボスだろう。

 海賊討伐の依頼まである。


「一見すると、平和そうなのにね」

「それより、わたしが気になっているのは」

「分かってるよ。海のヌシ釣りでしょ?」


 チサちゃんは冒険者ギルドで、一つの依頼書をずっと眺めていた。


 そのポスターは、他の依頼書より遥かに大きく貼られている。


「海のヌシを釣ること」


 別に捕獲して食べるとかではないんだけど、釣ったら自慢できるくらいに難易度が高いイベントらしい。


「すごく面白そう。主に一度会ってみたい」


 チサちゃんは好奇心の塊だ。楽しいことがあれば飛びつく。


「そのヌシが、二層のボスかも知れないからね」



「ヌシ、撮影快調」



 テレビドラマの宣伝みたいな宣言だね、チサちゃん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る