ネウロータくんの誤算

「どうしてだ、こんなにおいしいのに? トシコさんの料理は完璧のはずだ!」


 納得がいかないという様子で、ネウロータくんがマミちゃんに凄む。


 確かに美味しい。ボクたちなんか比較にならないくらいだ。けれど。


「確かにおいしかったわ! でもね、落ち度があったの!」


「なんだと? ぼくの料理は完璧だったぞ! 落ち度なんて」


「あれを見てみなさい!」

 マミちゃんが、テーブルを指さした。




「ウソだろ、残してる」

 ネウロータくんは、お皿一杯に残っている料理を見て、愕然となる。



「なぜだ? こんなにおいしいのに」


 彼が激高するのも、仕方ない。


 実際、本当においしかった。

 味で言えば、ボクたちは完全に負けだろう。



 味「だけ」で言えば。


 一方で、ボクたちの料理には子どもたちが集まっていた。


「確かにネウロータたちの料理は、おいしいことはおいしいの! けれど、『誰が食べるのか』まで、気が向いていたかしら?」

 食べている子どもたちに、マミちゃんが視線を向ける。




「おいしー」

 子どもたちも、おにぎりを喜んで食べていた。お魚までおいしく食べて、元気になるだろう。




「あ、そっか」

 トシコさんの方は、理由が分かったみたい。


「ねえネウロータくん、どうしてみんながこんなに喜んでいるか、分かるかしら?」

「缶詰に味が付いているからだろ? 反則じゃん」





「それだけじゃないわ。缶詰を使うことで、骨が口の中で砕けるからよ」




 正解です、トシコさん。




 生の魚を使うと、どうしても小骨などを気にしてしまう。子どもなら特に。

 その点、缶詰を使えば小骨までちゃんと食べられる。


 だからチサちゃんは、缶詰を使うように指示したんだ。

 食べる相手が子どもだから。


 同じ年代であるチサちゃんは、そう判断したのだ。


「ワタシはあくまでも、素材の味を引き出しただけなので。子どもの好みなんて分からないもの。だから、ネウロータくんの食べたそうなものをチョイスしたの」


 それで、味の濃い料理が多かったのか。

 きっとネウロータくんは今まで、トシコさんが作る居酒屋メニューの味に慣れすぎたんだろう。


「カニカマを使ったのも、カニが匂うからでしょ?」

「はい。生のカニは、どうしてもクセが強いので、子どもは苦手かなって」


「ちゃんと、食べる人の気持ちになって考えていらしたのね、エラいわ」

 トシコさんから絶賛された。


「そうか。ぼくたちの料理はオトナっぽすぎるんだな」



 その通りだろう。


 マグロの解体ショーなどは楽しかった。

 実際、子どもたちも喜んでいる。


 とはいえ、子どもは原始的な味に飛びつくんじゃないかと。



 お酒のアテみたいな料理は、子どもには通好みすぎる。

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