おいしさの秘密

 思わず「うまい」と言いかけた表情になり、慌ててネウロータくんは口を塞ぐ。


「うそだ。カマボコだけで、こんな濃厚な味わいと、サクサク食感の味が引き出せるなんて……そうか、お前ぇ!」

 まだ、ネウロータくんが驚愕している。




「そうだよ。カニカマを、衣に使ったんだ」



「くそ、その手があったか!」


 カニカマを直接クリームと合わせるのではなく、カニカマを衣として活用したのだ。カニカマを薄くして平たくし、衣を付けてクリームを包む。その状態で揚げたんだ。


「ちくわの磯辺揚げってあるでしょ? それのクリームコロッケ版だよ」


「やたらうまいわけだ!」

 頭を抱えながら、ネウロータくんが悔しがる。 


「ホント。ダイキさん、レシピ教えてね。ネウロータくんに食べさせたいわ」


「ありがとうございます」


 最大級の絶賛をもらった。


「ダイキにとって、料理は愛情」


 デザートは、カボチャを丸ごと使った特大プリンである。


「まあ、これは」

 トシコさんが、驚いた顔に。 


「ほのかに甘いですわ。器まで食べられるなんて」

「山で育てたカボチャを、そのまま器にしました。消費方法に困ったときに、いっそカボチャのままプリンにしようと思いついて」


 カボチャプリンは現在、ゴマトマ温泉宿の定番お土産になっている。


「ずるいぞ、カボチャプリンなんてって、魚も海も関係ないじゃないか!」


「食べてみれば分かる」

 ネウロータくんの抗議を、チサちゃんが封殺した。

 スプーンでプリンをすくい、ネウロータくんの口に近づける。


「ウソだと思って食べてみて、ネウロータくん。このカボチャプリン、ちゃんとお魚使っているわ」


「プリンに魚なんて、どうやって?」


 トシコさんに諭され、渋々という感じでネウロータくんがプリンを一口含む。


「これは! お前ら、カラメルソースに魚醤を使ったな!」


「そうだよ」

 いつもはお砂糖だけ使うのだが、今回はカラメル作りにナンプラーを使ったのだ。

 ベトナムだと普通にあるらしいけど、ボクはもっと甘くしてみた。


「カボチャの甘みに、塩味がきいて美味しい。おいしいぞ!」


 結構なボリュームのあるプリンを、ネウロータくんは残さず食べてくれた。


「で、でも勝負はぼくの勝ちだからな!」 


 それは、否定できない。


 トシコさんの料理は完璧だった。

 

 いくらチサちゃんの策略がうまくいったとしても、これは負けるかも。


「早く採点しないか、マミ!」


「言われなくても、もう済んだわ!」


 子どもたちは、ボクたちが作ったおにぎりに殺到している。


 一方、ネウロータくんの料理には、あまり人が来ていない。


「見ればお分かりでしょ? ダイキたちの勝ちよ!」

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