濃厚な味わい 対 家庭料理

 審査はマミちゃんの言葉通り、子どもたちにやってもらう。


 まずは、トシコさんとネウロータくんチームから。

 海藻のお味噌汁と、「アジのさんが焼き」だ。


 ネウロータくんはマグロのお刺身を振る舞う。


 ボクたちは、マグロの中落ちを優先的にもらった。通はココが一番美味しいって言うね。


「濃厚」

 チサちゃんが、お醤油をたっぷり付けて、マグロを味わう。


 いつもの赤身とは違う。かといってトロよりサッパリしていて。


「おいしいです、トシコさん」

「ありがとうございます」

「海のある地方の出身ですか?」

「そうね。チバの辺りと言っておこうかしら」


 あの辺りの料理は、おいしそうだ。


「でも、地元にはいい専門学校がなくって、上京したの」


 だけど、夢は破れてしまった。

 そこにネウロータくんが現れたという。


 トシコさんは、ネウロータくんの世話をするという、第二の人生を歩み出した。


「うーんまい!」

 ネウロータくんは、ちゃんとサザエの肝まで平らげている。

 

 チサちゃんがビール好きになるなら、ネウロータくんは焼酎が好きになりそうだね。


「メインは、タコのアヒージョです」

 ああもう、おいしいヤツだ。


「これも、濃厚」

 チサちゃんも、アヒージョの油をパンに吸わせて食べている。


 凝ったモノを作るなぁ。

 さすが女性だ。いたるところがきめ細かい。


「どれもこれも、お店で食べるような味ですね」

「そんな褒められてもー」

 デザートは、抹茶のかき氷だ。


「しまった。これでよかった。かき氷はシンプルイズベスト」


 そうだった。ボクたちにもオレンジという作物があったのに。

 チサちゃんの言うとおりだ。


 濃い味付けの最後に、あっさりしたかき氷なんて。バランスの組み立て方が絶妙だ。


「手強い。相手は海まで手に入れる実力者。やはり半端な相手ではない」

「そうだね。ボクたちも最後まで全力を尽くそう」

「大丈夫。わたしは、ダイキを信じる」


 いよいよ、ボクたちの料理を振る舞う番だ。


「エビグラタンです。おにぎりにはイワシの缶詰を使いました」



「うん。うまい。普通だな」

 ネウロータくんの評価はまあまあという感じ。


 でも、普通というフレーズは、やはり気になっていた。


「これが、カニクリームコロッケです」

 ネウロータくんの前に、クリームコロッケのお皿を置く。

 ボクの作ったクリームコロッケは、普通のモノより細長い。


「アハハ! それがカニクリームコロッケだって? カニカマしか使ってないじゃんか!」

 ボクたちが料理を出すと、ネウロータくんが豪快に嗤う。


 確かに、トシコさんたちの本格的な料理と違い、ボクたちが出すのは家庭料理オブ家庭料理だ。いわば、恥ずかしいくらいに定番である。




 だけど。



「食べてみてから、文句を言ってください」

 黙って、ボクは皿を差し出す。





「こんなの食べるまでも……ん!? うんま……!」

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