トシコさんの過去

「マミさん、続いてネウロータチームの厨房ですが!」

「はいどうぞ!」


 トシコさんは、サザエとハマグリを炭火で焼いている。


「あ、サザエから汁がドバドバです! 旨味が零れていきますっ!」


「おっとこれは! トラブル発生かしら?」


 もったいない食べ方をするなーと、ボクは思った。


「大丈夫ですよ。今サザエから出ているこれ。実は海水なの」

「ホントですか? 濃厚な旨味が逃げちゃってるのでは?」


「確かに、皆さんが食べるときに『濃いなー』って思うでしょ? 海水を飲んでいるから、当然なの」


 惜しげもなく、トシコさんはサザエを網からあげて、シンクにひっくり返した。


「この汁気は捨てまーす」


 海水が流しにこぼれ落ちる。


 同様に、ハマグリも裏を向けた。海水が、ドボドボッとハマグリから垂れていく。


 あれが旨味なんだと、ボクも思っていた。


「後からちゃーんとダシが出ますから、安心してねー」

 小羊ちゃんに、トシコさんが手を振る。


 海水を吐き出させ、そこから出てきた汁にこそ、本来の旨味が凝縮されているんだって。知らなかった。


「見事ですね。どこかで、修行なされていたんですか?」

 羊魔王ちゃんが、トシコさんにインタビューをする。


「ここに来る前、居酒屋の厨房でバイトをしていました。学費を稼ぐために」

「学費とは?」

「イラストの専門学校です」


 人外少年が主役のマンガを書いていたらしい。

 

 

「料理は得意だったんですけど、おじさんやお年寄りの相手ばかりで、つまんなくて。お店はすぐにやめちゃいました。そこで改めて、自分が少年好きなんだなと実感しました」


「可愛いんですから、メイド喫茶という手は?」


「次の勤め先が、そこでした」


 トシコさんは、厨房スタッフとして働くことを望んだ。

 しかし、与えられた仕事は接客と、腕っ節を見込まれたボディガードの仕事ばかり。


「だからイヤだったんです。友だちに誘われてイヤイヤやっていました」と、トシコさんは心底嫌そうな顔をする。


「おまけに、そこも客層がおじさんばかりでして……」


 辞めようと思っていた日に来た客が、ネウロータくんだった。


「ネウロータくんにスカウトされて、即OKしました。食事の味付けを合わせるのに苦労しましたけど、楽しいです」


 彼と出会い、今日に至るという。




「チサ選手は、なにをしてますか?」

「カボチャの器を作ってる」


 半分に切ったカボチャをレンチンし、中身をくり抜いて、器にしてもらっている。身も、後で使う。


「マミさん! どうやらチサ選手、デザートを作っているようなんですが」

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