料理、開始!

「ちょっと待って、チサちゃん、聞いてもいいかな?」

「どうぞ」

「ひょっとして、生魚全般ダメな魔王?」


 まともな魚介は、エビくらいである。それ以外は、全て加工食品だった。


 ボクの問いかけに、チサちゃんは首を振る。


 よかった。企画自体がダメになるところだった。


「お刺身も、食べたことがある」


 焼き魚だって、川魚ならよく食卓に出てくる。だから、苦手という感じではない。


「でも、ホントに、これだけでいいの、チサちゃん?」

「うん。これが食べてみたい。どれも食べたことがあるけど、これだけは見たこともない」

「は、はい」


 仕方なく、ボクは缶詰をチョイスした。

 ツナだとマグロなので、ネウロータくんとかぶってしまう。

 よって、イワシにする。


「お前……マジか?」

 ネウロータくんも、チサちゃんの選んだ食材が特殊すぎて、呆然としていた。


「ありえない。これだけ新鮮な食材があるのに、見向きもしないなんて」


「今は時間がないから、味付けをしている余裕はない。素早く作るには、既に味のついてある食材がいいと判断した」


 すごいなチサちゃんは。

 勝負を持ちかけられた時点で、そこまで考えるなんて。

 本音は、早く食べたいんだろうね。


「許可しよう。マミ・ニム、合図をくれ!」

 ネウロータくんが、マミちゃんに号令するよう頼んだ。


「では、始めなさい!」

 マミちゃんが手を振り下ろし、料理対決が始まった。


 ボクは炊飯器にといだお米を投入する。

 直後、イワシ缶を開けてドボドボ入れた。


 トシコさんは、サザエとハマグリを炭火で焼いている。


「マミさん!」

「はい、冷蔵庫前アナの小羊ちゃん!」

 マミちゃんが実況、小羊ちゃんが冷蔵庫前レポーターを担当する。昔、こんな番組があったなと、少年時代を思い出す。


「ネウロータ選手による、マグロの解体ショーが始まっています!」


 見事な剣さばきで、ネウロータくんはマグロをスパスパと切り揃えていた。ああいうのがスキなんだね。


「へーえ、見事ですね! 会場内からも歓声が上がっていますよ!」


 あちらの喧噪に見とれることもなく、ボクは次の料理に取りかかった。


 カニカマを細かく刻んで、溶かした薄力粉と合わせる。


「そのお料理は、何ですか?」

 小羊ちゃんに、マイクを向けられた。


「カニクリームコロッケにします」

「カニカマで、ですか?」

「はい。カニカマでクリームコロッケを」


 これは、チサちゃんのリクエストだ。


 ボクには、子どもたちの好みなんて分からない。


 よって、チサちゃんの食べたいものを聞いて、作ることにしたのだ。

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