膝枕の玉座
トシコさんも、ネウロータくんの腰辺りを撫でていた。
なにも本気で拗ねているようではないらしい。あのやりとりは、じゃれているだけだ。家族特有のスキンシップだろう。玉座の方が立場が上、というわけでもない。
あれだけの信頼関係があるのか。手強そうだ。
「こんな状態でごめんなさい。この体勢が玉座なの」
オホホ、とトシコさんが笑った。
「ああ、いえ。お二人も、随分と仲が良さそうで」
ネウロータくんが「いいもんか!」と怒鳴る。
しかし、シッポをブンブンと振っているから、間違ってはいないみたい。
「ボクの方もごめんなさい。こう見えても玉座でして」
「知っているよ。強いんだって? そうは見えないけど」
フン、とネウロータくんが横を向く。
「あ、そうだ。これをみなさんで。お近づきの印に」
ボクはポージュースと、カボチャのクッキーをトシコさんに差し出す。
「今のニホンでは、『つまらないモノですが』とか言わないんだな?」
「ボクより上の世代でも言わないよ、たぶん」
ネウロータくんの指摘に、ボクは返答する。
「まあ食べてやろう」
「待ちなさい。『いただきます』は?」
ポージュースの瓶を開けたネウロータくんの手首を、トシコさんが掴んだ。
文句を言いつつ、ネウロータくんは手を合わせる。
「はいはい。いただきまーす。んん!?」
ジュースを飲んだ瞬間、ネウロータくんがビックリした顔に。
「どうしたの、おいしくなかったの?」
違うよね。一瞬で飲み干しているから。
「全部飲んじゃったのね。クッキーもほとんどなくなって。そんなにおいしかった?」
「ま、まあまあだな!」
虚勢を張っているのが、ボクにも分かった。
トシコさんの方は、じっくりと味わっている。
「甘いのにサッパリしているわ。いくらでもいけちゃう。単純においしいだけじゃなくて、お二方の愛情を噛みしめている感じね。ごちそうさまでした」
「ありがとうございます」
大変、気に入っていただけたようでうれしい。
「今度お越しになるときは、これらの品をまたぜひ。ネウロータさまも喜びますわ」
「ぼ、ぼくは欲しいなんて言ってないぞ! もらってやると言ってるんだ! トシコ姉さんも乗せられるんじゃないよ!」
慌てて、ネウロータくんが訂正する。欲しいのが見え見えだ。
「それより勝負だ! 闘いに来たんだろ?」
この魔界に来てはじめて、ボクたちは攻める側に立つ。
「勝負形式は、何がいいんだ?」
「そちらで決めていい」
出向いた以上、こちらはアウェーだ。
チサちゃんは、相手の要求を飲む姿勢に。
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