ネウロータの城

 赤色の門の前に立つと、ひとりでにゆっくりと開門した。


 招かれていると分かる。


「お邪魔します」

 そっと、チサちゃんと共に足を踏み入れた。


 門の内側には、何人もの使用人さんが頭を下げてボクたちを迎える。


 お目当ての魔王と玉座は、玄関に座っていた。


「ようこそ、おいでくださいました。長内おさない 大毅だいき様、チサ・ス・ギル様」


 そこにいたのは、人間の玉座だった。しかも……。


「日本人だ!」

 玉座は、日本人の女性だったのである。


 今まで、チサちゃんの対戦相手は女性ばかりだった。実際ボクが対決した玉座も、男性のみ。


 対して、今回の相手は、玉座が女性である。


「初めまして、長内 大毅です。よろしくお願いします。本日は、お招きありがとうございます」



「私は、上条かみじょう 寿子としこです。トシコとお呼びください」



 ほんわかした声で、トシコさんは自己紹介した。

 黒髪を一本の三つ編みで結び、終始にこやかにしている。着物の上に来ているのは、パフスリーブの割烹着か? にしてはアップリケを付けて、カラフルだ。そうか、あれは保育士さんが使うスモックか。


「二一歳です」

 ボクより二〇歳近く若い。


「きれい」

「そうだね」


 こんな奥さんがいたら楽しいだろうな、とボクも思う。


 トシコさんは、下半身が赤いヘビの少年を膝枕している。


「で、この坊やが、私が仕えるラミア族の魔王、ネウロータ様です」



 彼が、ネウロータくんかな? 

 少年の態度は、随分とふてぶてしい。


「フン、わざわざ負けに来たのか」

 魔王の方が男の子だった。膝枕されながら、こちらに顔だけ向けている。


「こら、ご挨拶が先でしょ」


「ちぇー」

 渋々と言った感じで、少年が起き上がった。


「ボクがこの城の主、ネウロータだ」


 言うと、ネウロータくんはまた膝枕の姿勢に戻る。


「チサ・ス・ギル」

「長内大毅です」

 相手はボクたちを知っているようだけど、ご挨拶を返す。


「着ぐるみとか、随分と妙な格好で来たな」

「ええ、すいません」


「別に怒ってないよ。タキシードなんかできたら、追い返していた。戦うんだぜ、ぼくたち。馴れ合いなんかしたくない」


 雰囲気からしてやんちゃそうで、言葉遣いも悪い。だが、根っからの悪い子じゃなさそうだ。


「こらこら、お客さんにそういうこと言わないの」


 トシコさんが、ネウロータくんの言動をたしなめる。


「だいたいトシコ姉さんは、いちいち魔王共に甘いんだよ。そんなんじゃ、なめられるぞ」

「いいじゃない別に。長い付き合いになるんだから、仲良くなさい」


「ちぇー」

 年上のお姉さんに説教され、ネウロータくんは唇を尖らせた。


 そうでありつつ、蛇のシッポはバタバタとうれしそうに跳ねている。

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