人生初の、海

 気がつくと、ボクは見知らぬ土地に立っていた。

 船酔いみたいな体感なども、痛みもない。

 一瞬で辿り着いたようだ。

 目をつむっていたから、何も分からなかったけど。


 辺りから、どこか懐かしい匂いが。


 コレは、潮の香りだ。


 エヒメとは違うけど、確かに海を鼻で感じられる。


「波の音だ」

 音につられて、チサちゃんと手を繋ぎながら進む。




 丘のてっぺんに立ち止まって、ボクはため息をつく。




 エメラルドグリーンの景色が、視界を覆った。


 海だ。


 緩やかな波が崖に当たる。


「チサちゃん、これが海だよ」


「海、大きい」

 はじめて海を見るのか、チサちゃんは漣に目を奪われていた。


「降りてみる?」

「うん」


 興奮気味に、チサちゃんが丘を駆け下りていった。


 チサちゃんと砂浜を歩く。海なんて何年ぶりだろう。じっくりと、砂の感触を踏みしめる。


 大きな水瓶に、チサちゃんは手を入れた。


「冷たい。でも、気持ちいい」

「なめっちゃダメだよ。喉が渇きまくるから」


 口に入れそうになった海水を、チサちゃんは海に帰す。


 続いて、岩場に向かう。

 岩に張り付いたイソギンチャクに、チサちゃんは興味を持ったらしい。


「小さい。モンスター? でも、魔力を感じない」

「あれは海産物だよ。たぶん無害なんじゃないかな」

「美味しいの?」

「たいして、身はないと思うよ」


 イソギンチャクなんて、食べられるんだっけ?


 早歩きしながら、チサちゃんは浅瀬を歩くカニを追いかける。


 こっち側には、人の気配はない。

 もっと向こうに人気が集まっている。


 あちらに召還されていたら、パニックになっていたかも。

 ボクたち、いわゆる侵略者だもんね。


 ここは一言で言うと、南の島と呼ぶに相応しい。

 ボクたちの暮らしている街とは大分様相が違う。

 

 砂も茶色ではなく、どこか白い。海外旅行のパンフレットに載っている、リゾート地を思わせた。


 右手の方に、港が見えた。何隻もの漁船が停泊している。周りを、海鳥が飛んでいた。


「あれは?」

「船だよ。魚を釣りに行くんだ」


 一際大きく頑丈な船は、別大陸を目指すのだろうか。


「あの宮殿」

 ボクは、橋が架かっている小さな島を指さす。


 小島が連なっているエリアに、一際大きな宮殿が。

 さしずめ、陸に上がった竜宮城かと思わせた。

 赤と緑を基調にした、水の宮殿である。庭のあちこちで噴水が作動していた。


「おそらく、あそこが魔王の城」

「行ってみよう」


 ボクたちは、宮殿へ向かう。


 本当は、偵察のために街をもっと見て回りたいけど。他の人がどんな暮らしをしているかは気になる。とはいえ、相手を待たせてはいけない。

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