海のカード

 またしても、マミちゃんとケイスさんのドツキ漫才が始まった。


 一方的にマミちゃんが蹴っているから、ドツカレ漫才か。


 そんなに手強いんだ、海カード持ちって。


「あれ、そういえばケイスさん、雰囲気が変わりましたね」


 ケイスさんの服装が、いつもと違っていた。囚人服柄なストライプの上下で決めている。いわゆる昔風の水着らしい。

 特に足下だ。ヒレのような手袋をはめている。


「そうなんですよ、実は、海のカードを手に入れて、水かきを装備したのです」


「ゲットしたんですか?」


「はい」


 よく見ると、マミちゃんのゴーグルもスノーケリングマスクになっているじゃないか。見落としていた。タンクトップのスキマから覗く日焼け跡も、いつもより色の差が濃い。


「まあ、苦戦したけど手に入れたわ! じゃじゃーん!」

 マミちゃんが、「海」のカードを見せてくれる。



「こんなイラストが描いてあるんだね?」

「わたしも、初めて見た」

 海のカードには、波打ち際のイラストに、大きく「海」と文字が描かれていた。もっと禍々しい荒れ狂う海を想像していたんだけど。


 確かに、マミちゃんなら三層に行く実力も十分だろう。


「三層行き、おめでとう。マミ」

 チサちゃんが手を叩いた。


「まだ確定したわけじゃないわ。大ボスのLOとも戦わなきゃいけないし!」


 そうか。LOを倒さないと、自分のものにならないんだった。


「今、大ボスって言わなかった?」


「そうよ。三層以上には、層の境界に番人が待ち構えているの。これまでのLOとはワケが違うのよ! 負けたらカードも没収。そいつを倒さない限り、カードも戻ってこないらしいわ!」


 ワクワクしている顔をしながら、マミちゃんは怖いことを言う。


「今から楽しみなの! 早く階層の主と戦いたいわ!」

「お言葉ですが、マミ様。その前に、港の発展が先ですが」

「言われなくても分かってるわよ! どの口が言うのかしら?」

「ひぎい!」


 マミちゃんとケイスさんが、またドツキ合いを始めた。

 ケイスさんはうっとりしているけど。


「ところで、マイちゃんはどうやって海周辺を発展させるつもりなの?」

「市場に決まってるわ!」

「えっと、市場って、魚市場のこと?」


 ボクは、魚や甲殻類ばかりが売られている商店街をイメージした。ピチピチと暴れる魚のシッポを掴みながら豪快な笑顔で接客するマミちゃんが目に浮かぶ。


「そうよ! 魚介食べ放題! お魚って砂漠にはないから、楽しみなの!」

「ご自身が食べたいだけです」

「いいじゃないの! お刺身ってのが欲しいわね!」


 ヨダレを拭きもせず、マミちゃんがまだ見ぬ魚市場に思いを馳せている。

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