第91話 黒龍ルチャの記憶

 薄れていく意識の中、ボクは黒龍ルチャの記憶に溶け込んだ。


 何万年も昔のことである。


 ルチャと亜神は、異種族といえどもライバル同士だった。


 人間でありながら、黒龍ルチャは最強の玉座候補だったようである。拳法を用いて、素手でモンスターとも渡り合えていたとか。


 彼を玉座に選んだ大魔王候補も、ルチャと一心同体だった。


 その子は亜神の最初にできた子どもで、過保護気味になっていたらしい。


 だが、一番目を掛けていた大魔王候補は、残酷に告げる。



「わたし、大きくなったら、ルチャのおよめさんになる」と。



 親友と言えど、大事な娘はやれない。この子は自分が嫁にするのだ。我が子可愛さに、亜神はそう考えてしまう。


 自棄を起こした亜神は、最大級の奥義を用いて、二人もろとも消滅させようと、特大の波動を放つ。


 ルチャはその身をもって、少女をかばう。黒龍拳最大の奥義で迎え撃つ。


 亜神が我に返ったときには、黒龍は消滅していた。



 さすがに、亜神は自らの行いを反省したらしい。

 が、時既に遅し。



「パパなんて、だいきらい」



 と、魔王候補も、魔王業をやめた。

 力を自分で封印し、ただの人間になってしまったという。



 それが、ボクの先祖だったらしい。


 ルチャは禁を破り、魔王候補との間に子を宿していたのだ。


 ボクと似たような目に、ルチャは遭っていた。あんな大昔に。


 過去の出来事と、自分のことを照らし合わせて、ボクは吹き出す。


 だが確信した。

 ボクは、黒龍ルチャの血を受け継いで生まれたのだ、と。


◇ * ◇ * ◇ * ◇


「防がれただと!」


「まさか、ダイキ様!?」

 腹部の透明な装甲を開き、セイさんが外に出てくる。


 ドレンは痛がっていない。どうやらただのハッチのようだ。


 あれ、生きてる。ここは、天国でも地獄でもないようだが。


「なんだ、これ?」


 紫のウロコが、ボクたちを取り囲むようにトグロを巻いていた。競技場を覆い尽くすほど大きい。バチバチ、と、黒龍のウロコが火花を散らしている。


 ボクは直感した。黒龍ルチャが、ボクを守ってくれたんだ。


 役割を終えたとばかりに、黒龍のウロコがガラガラと崩れ落ちて、消えていく。


 同時に、ボクの体力もなくなった。ドサッと地面に寝転ぶ。


「ダイキ!」


「唇が紫である! 命まで燃やし尽くしたようである!」

 駆け寄ったゼーゼマンとエィハスの顔が見えた。



 そんなに、今のボクはひどい顔なのか。


「ポージュースよ! しっかりなさい」

 マミちゃんが、チサちゃんにポージュースを渡す。


「そうだよ。あと一息だから!」


「ああ、ありがとう」

 ボクは、オンコにゆっくりと起こしてもらう。



 チサちゃんが急いで栓を開けた。

 ボクの口にムリヤリねじ込む。

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