第85話 大魔王 降・臨
セイさんが、ボクの足下に二枚の紙切れを投げ落とした。
これ、どっちも文字が書いてないじゃないか!
代わりに、魔方陣のようなグニャグニャした絵が描いてある。
「何の冗談ですか、これ?」
「こういうことだ」
声は、足下から聞こえた。
ボクは、下を向く。何もない。魔方陣の絵があるだけ。
魔方陣が緑色に光り出した。
スライムのようにブヨブヨと動き出す。
「ダイキ危ない!」
「うわっ」
チサちゃんに腕を引かれ、とっさにボクは飛び退く。
スライムのような緑色のカタマリとなって、魔方陣は空中へ上がっていった。
カタマリは、空を覆い尽くすほどに大きくなっていく。
上空に穴が開き、小さなピンク色のスライムが舞い降りる。
二つのスライムが混ざり合い、破裂した。
爆発音が大きいだけで、何かが飛び散ったりはしない。
「なんだ、あれは?」
出現したのは、空よりも大きく、夜よりも深い色を持った巨大イカである。
触腕の上に、女性が座っていた。こちらは人間サイズだ。
「チサちゃん?」
女性は、チサちゃんにそっくりである。
背格好が、数年後のチサちゃんを思わせた。
違う点は、胸の大きさか。
服装も、今にもこぼれ落ちそうなくらい心許ない。
こんな形態でチサちゃんが現れたら、ボクはたちまち洗脳され、トリコになっていただろう。
「娘をありがとうございますね。
チサちゃんが大人になったら、きっとロイリスさんのように素敵な女性になる。
ボクには容易に想像できた。
ロイリさんを触腕に載せながら、真っ黒いイカがこちらにギロリと眼球を向ける。
「小生は
「ジアン?」
「
黒いイカが抗議してきた。
「魔物、違うか。インベーダー?」
「我は異界の神である。ロイリ程の魔王となると、並の男では満足させられぬ。我のような神格でなければ、ロイリのマナをコントロールできぬのだ」
それだけ強いのか、ロイリさんは。
この世界に住み始めてから、ボクも多少はマナを感じ取ることができる。
けど、これほどのマナに出会ったことはない。
次元が違いすぎる。
チサちゃんも強いけど、ロイリさんはそれ以上だ。
「チサをここまで立派に育て上げたこと、礼だけは言おうぞ人間! だが、娘はやらん!」
お母さんは気心の知れた方だけど、お父さんの方は頑固オヤジって感じだね。
「いいじゃないですか、パパぁ。チサも気に入っていますわ」
「やだやだ! ニンゲンなんかに娘はやらへんもん、やだぁ小生やだぁ!」
「身体はやたら大きいのに、度量は小さいですわねぇ」
体格差は天と地ほどあるが、さすが魔王だけあって、威厳は母親にあるらしい。
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