第86話 授業参観にきた大魔王

「マミは大丈夫?」

 チサちゃんは、自分よりマミちゃんが心配らしい。



「何をされたかすら、覚えてないでしょうね」



 無事だと分かり、チサちゃんはホッとしている。


 驚異なのは、マミちゃんをあっさり退けたことだけじゃない。

 ケイスさんがまったく身動き取れず、立ち尽くしていたのが印象的だ。

 最後まで、セイさんにされるがままだった。


 チサちゃんが全力を出して辛勝したくらいの相手を、である。


 そこまでの開きがあるのだ。

 チサちゃんとセイさんとの間には。


 セイさんとドレンが、ロイリさんにひざまずく。


「目覚めましたね、セイ。まだ、野心は消えませんか?」


「私の世界支配は義務。果たすべきことだから、従うのみ」


 世界を治めることが、ただの義務だって?


「おかしいですよ。義務のために世界を征服するなんて」





「それが魔王というものです。故に、どちらかが滅ぶしか道はなし」

 セイさんの言葉からは、本気度がうかがえた。





「それで、お二方は何をしに現れたのでしょう?」


 チサちゃんを滅ぼしに来た、というワケではないだろう。

 もしそれだったら、ボクたちはとっくにこの世界から排除されている。


「ウフフ、授業参観ですわ」


 保護者による参観だって?


「チサがどれだけ強くなったのか。かつて大魔王候補の中でも、歴代最強と言われたセイと、どちらが強いのか。見届けさせていただきます」


 手を出さないが、手を貸すこともない。


 いまいち頭が整理できていないが、ボクたちは、セイさんを倒さないといけないようだ。


「もし、ボクたちが負けたら?」

「大魔王候補が負けた世界がどうなるかは、セイから説明があったはずです。文明は破壊され、大地のマナは枯れていきます」


 この世界に住んでいる人々のためにも、負けられないワケか。

 けれど、そのために大切な存在と戦う必要があるなんて。


「ママ、ちょっといい?」

「ええどうぞ」

「場所を変えたい」


 ここには、大事に育てたミカン畑がある。近くには街や鉱山、森が。


 もし、チサちゃんが全力で戦うことになれば、城を壊すどころではない。


「もちろんです。お父さん?」


「心得ている」

 亜神が、触腕を振り上げた。


 ブラックホールのような渦が、空に穴を開ける。


「この中へ入ってくださいな。暴れても壊れない世界がございます」


 ロイリさんたちに続いて、ドレンに載ったセイさんが飛び込む。


「ボクたちも行こう」

「ダイキは残って」


「そういうワケにはいかない!」

 離れようとするチサちゃんを、ボクはムリヤリ抱き寄せた。


「ボクはチサちゃんの玉座だ。こうなることは、覚悟の上だよ」


 決意したのを見計らったかのように、渦が大きくなっていき、ボクたちを飲み込んだ。

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