第82話 これからもよろしく

「チサちゃんは、知っていたの?」


 無言で、チサちゃんはうなずく。


「どうして、黙ってたの?」


 尋ねてみても、チサちゃんは黙ったままだ。



「待って、ダイキ。チサを責めないであげて」



 実は、マミちゃんも先日ケイスさんに話したばかりなのだという。



「そんな。ボクは責めてません」


 ただ、ビックリしただけ。ドッキリかと思って。


「そう聞こえたなら、謝るよ。チサちゃん」


「平気。それよりマミ、今日の所は」

 唐突に、チサちゃんはマミちゃんに話を振る。


 勘がいいマミちゃんは、チサちゃんの言葉が人払いだと気づいたようだ。


「それもそうね。じゃあ、吉報を待っているわ、チサ!」

「ダイキ様、ごちそうさまでした。よい成果を期待しております」


 ポージュースの試作品をもらって、マミちゃんたちはホクホク顔で帰っていく。


 これで、第一段階はクリアだ。順調に売れていくだろう。

 寝る時間になって、ボクはチサちゃんと向かい合った。


「黙っていて、ごめんなさい」

「いいんだ。大切なことだから、日を見て話そうと思ったんだよね?」


 チサちゃんに悪気なんて、あるわけない。 


「話さなかったのは、機会が来たらと思っていたから。わたしのワガママにこれからも付き合ってくれるのか、不安だったから」


 ワガママだなんてそんな。


「ここに連れてきてもらって、ボクは自分の人生に意味を持てた。チサちゃんがどんな決断をするとしても、ボクは従うよ」


 懸念があるとすれば、ボクの方だ。


「ボクなんかで、いいの?」


 チサちゃんに比べて、ボクは頼りない。

 自己肯定感も低い方だ。

 卑屈な性格のボクがいても、チサちゃんは面白くないよね。




「ダイキがよかった」

 即答で、チサちゃんが返す。




「他の人は、わたしをイケナイ目で見ていた。ダイキは違う。ちゃんと大事にしてくれた。だから、夫はダイキしかいない」


 チサちゃんはサキュバスだ。

 寄ってくる男がすべて、狼に見えていただろう。

 どれだけ辛い思いをしてきたか、ボクには想像もつかない。


「ありがとうチサちゃん。ボクを玉座に選んでくれて」


 お互いを想い合っているなら、それでいいか。


「これからもよろしくね、チサちゃん」

「こちらこそ。ダイキ」


 ボクは、膝に乗っているチサちゃんを抱きしめる。






 その夜に、ボクは大人になったチサちゃんと、食卓を囲む夢を見た。

 ボクの側には、チサちゃんとの子どもがたくさんいる。

 この日常を、ボクも求めているのだろう。






 だが、トラブルは突然やって来た。



 まるでボクたちの日常を阻むかのように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る