第81話 気が早くない?

 マミちゃんと夕飯を食べながら、ボクはボーッとしていた。


「ちょっと待ってください。早くない?」

「どうして? 名誉なコトよ」


 たしかに、光栄だけど。


「マナの相性が大事って説明したでしょ? マナの相性によって、玉座との子どもが生まれるかどうかが決まるのよ」


 子どもって、また気が早いな!


「年齢的な問題をクリアしてないのでは?」

「見た目はこうだけど、あなたより、数十年近く歳を重ねているのよ? どうってことないわよ」


 そっか、そういえば魔族だよね。ボクより全然年上だった。

 見た目のせいで忘れていたなぁ。


「そうは言っても、まだ心の準備が」

 急に、チサちゃんがグッと大人になった気がした。


 知らなかった。玉座に、そんなルールがあったなんて。


 ボクとチサちゃんが、夫婦になるのか。想像もできないな。


 チサちゃんは立派なレディになるだろう。

 てっきり、チサちゃんは魔族のいい人と婚約するモノだと思っていた。

 ボクとのデートも、その予行練習だと。



 実際は違うのだ。

 ボクと一緒になることを想定して、ボクを連れ回していた。



 そんなことも知らずに、ボクは。


 無神経なボクに、チサちゃんのダンナが務まるのだろうか。


「どうなさいました、ダイキ様? 先ほどから食が進んでいないようですが?」

 ボクの様子を心配してか、セイさんが声をかけてくる。


「いえ、おいしいです。ありがとうございます」




「何も召し上がっておりませんよ」




 セイさんに指摘され、ボクはぎょっとなった。


 そういえば、箸が止まったままだったな。

 どうやら考え事をしていて、ご飯を食べるのを忘れてしまっていたようだ。

 慌てて白飯と唐揚げをかきこむ。



「いらないなら、唐揚げもらうわよ」

 マミちゃんが、ボクのお皿に手を伸ばす。



 ペチンと、チサちゃんがマミちゃんの手を叩き、ボクのおかずを死守した。


「ダメ、マミ。唐揚げはわたしの。こっちのミートーボールならあげる」

「ホント? ラッキー!」


 チサちゃんとマミちゃんは楽しげに、おかずを交換し合う。


「チサの家のご飯は、庶民的だから好きよ! ウチの料理ってね、味は完璧だけど窮屈なの」


 マミちゃんのお城だと、毒味役がいるなど物騒だという。


「ここは、なんだか家庭の味って感じがして好きだわ!」

「ありがと」


 家庭的か。そうだよな。


 こんな賑やかな食事が、毎日食べられる。

 こんなに楽しいことはない。


 けれど、一家の主になるなら、相応のプレッシャーがあるはず。


 チサちゃんに、家庭を持つ重圧なんてあるのだろうか。


「ボクのお嫁さんになるの、怖くない?」


「玉座は、魔王を常に支え続けなければならない。よって、夫として相応しい存在こそ、玉座。ダイキはわたしが選んだ。だから、何も怖くない」


 堂々と説明しているが、チサちゃんの肌は段々と熱くなっている。

 これは恐れからか? それとも。


 ボクは、彼女を膝に載せていていいのだろうか。

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