第六章 命がけの遠足!?

第71話 鹿の主

 オンコから装備をもらった翌日、ボクたちパーティは再度集結した。

【琥珀花】の蜜を求め、オルエーの森へ向かう。


「何があるか分からないから」と、エィハスとオンコもついてきてくれた。


「その装備、よく似合っているぞ」

 エィハスは、冗談っぽく笑う。


 ボクはチサちゃんを運びながら進んでいた。


「笑わないでください」


「バカにしているわけじゃないんだ。本当に親子かなと思わせてくれる」

 エィハスの言葉からは、からかいの様子は見られない。


 最初は、かえって動きにくいのではないかと思っていた。

 だが、いざ歩いてみると、不思議としっくりくる。


「チサちゃん、揺れて気持ち悪くない?」


「平気。楽」

 ボクのヨロイに括り付けられたイスの上で、チサちゃんはリラックスしていた。


「森自体が、ダンジョンになっているなんてね」

 ダンジョンの構造を見て、ボクは驚いている。


 土が20メートルほど盛り上がり、森のツタが壁になって、迷宮と化しているのだ。山道かと思ったら、この森そのものが、ダンジョンの構造をなしている。


 試しに、壁のツタを上れないか確かめてみた。

 

 しかし、ツタは伸びるばかりで、壁を登攀することはできなさそう。上がれたとしても、道はなさそうだ。


 ボクたちが薬草を採りに行ったときは、入り口にすら入っていなかった。


「ダンジョンは危険。ヘタに初心者冒険者を連れて行けない」

「そうだな。こんなヤツらがゴロゴロいては」


 エィハスが、何体目かの魔物を倒す。人より大きなアリが、エィハスの剣に心臓を突かれて絶命した。人間サイズのアリなんているんだな。


 当然だが、ダンジョンにはモンスターが湧く。ここに来るまで、数体は倒していた。


 チサちゃんのお城が平和すぎるため錯覚してしまうが、この世界はモンスターで溢れているのだ。チサちゃんの支配が、すべての魔物に行き渡っているわけではない。


 ここのモンスターは、動物の形状をしている。


「見てみろ。一角ウサギの足だ。鶏より身が締まっていて、うまいぞ。オススメは角周りの肉だ。角もいいダシが出る」

 エィハスは魔物から、食用に使えそうな素材を剥ぎ取っていた。


「この花ってさ、洗剤に使えるんじゃない?」

 オンコは通路に穴を掘り、鉱石や何かの根を採取している。


 チサちゃんは、オンコから花をもらって、目で確かめた。


「使えそう」

 肉眼で成分や油分を分析できるなんて、さすが魔王だ。


「もっと掘り進みたいけど、土が硬いね」

「ボクが掘ってみるよ」


 ちょうど、掘るのに適した武器も持っているし。


「助かるよダイキ。お願いするね」


 オンコが手で探っていたエリアに、ボクはスコップを突き刺す。

 面白いように土が抉れた。サクサクと穴を広げていく。

 大量の素材をゲットした。

 これだけあれば、石けんにも困らないだろう。


「石けんか。たしか、米ぬかでも作れるよ」

「へえ、お米も石けんになるのかー。ウチで作れるかも」

「だったら、ウチのオレンジも使ってよ。香り付けになるよ」

「いいね!」


 また、生産物のリストが増えた。


「近い。花の在処はもうすぐなのである」

「急ぎましょう」


 ゼーゼマンの案内で、ボクらは歩みを早める。


「待って、ダイキ」

 チサちゃんの声に反応して、ボクたちは立ち止まった。


 開けた場所で、何かが動いている。湯気のようなカタマリが、ボーッと立っていた。


 相手に気づかれないように、近づく。


 湯気の正体は、体長一〇メートルの鹿だった。

 二本の角が異様に大きく、幅広い。

 ボンヤリとして、この世の存在とは思えなかった。


「あの大きな鹿は?」

 エィハスは、剣の柄に手を伸ばしかける。


「元々この森に住んでいる主」


 鹿はこちらに気づくと、東の方角を向く。


「あそこに、ボスモンスターがいるみたい」


 鹿は他の動物を守る必要がある。

 そのため、ボスモンスターに近づけない。


「必ず倒すので、待ってて」

 聞こえるか分からないが、ボクは鹿に伝える。


 ひとりでに、森がサッと開けた。門が開くように。


「ボクたちを案内してくれているのか」

「そうみたい。急ごう」


 鹿に礼をいい、先へと進む。

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