第70話 魔王の気遣い

「いやいや戦闘しづらいでしょ」


 こんなカッコウでスコップを振り回したら、危なくて仕方ない。


「そもそも、ダイキは戦闘要員じゃない」


 ボクの役割は保護役であると、チサちゃんは主張する。

 前面に立って戦闘するのはエィハスたちに任せればいいと。


「まさか、移動用だよね?」

「今のところは」


 だと思った。

 こんなカッコウで街を歩いていたら、呼び止められてしまう!


「折り畳み式なので、未使用時は鉄板となります」


 使い方を教わる。

 座席は持ち上げただけで、装甲板へと早変わり。シートが裏返るので、チサちゃんと接着する面へのダメージもない。


「そうしていただけると、助かります」


 何より目立つしね!


「これ、チサちゃんのリクエストなの?」

「そう。これで、ダイキと一緒に冒険できる」


 困惑するボクに対し、チサちゃんはウキウキ気味だ。

 よほどうれしいらしい。


「前に森を冒険したとき、離ればなれになりかけた。これなら、いつでも一緒にいられる」

「そんなに、ボクの側にいたかったの?」

「うん。ダイキはわたしの玉座だから」


 そこまで言われると、断れないな。


「迷惑だった?」

 チサちゃんが、悲しい顔をした。


「迷惑だとか、そういうワケじゃないんだ。ただ、ボクってやっぱり戦闘では役に立たないのかなって」


「本音を言えば、戦闘に出て欲しくない。危ないから」


 冒険者たちの活躍を見たが、みんな命がけだ。

 探索職のオンコだって、やるときは必死に戦っている。


 ボクも追いつきたい。

 チサちゃんが危ない目に遭うのは辛いから。


「チサちゃんが戦ってくれっていうなら、ボクは命がけでチサちゃんを守るよ」


 返答するも、チサちゃんの表情は曇ったまま。


「そういう所が、怖い」



「え?」



「ダイキは本当に身の危険が迫ったときの最終防衛ライン。うかつに死なせられない。でも、自分から危険に飛び込むというなら、止めづらい」



 なんとなく、チサちゃんが懸念している理由が分かった。

 ボクが本当に、命を投げ出すと思っているんだろう。


「怖かった。ずっと。いつかダイキが、自分の身を犠牲にしてしまうんじゃないか、って」


「ボ、ボクだって死ぬのは怖いから! チサちゃんが張り切らなくていいって言うなら、ボクも出しゃばらないよ」


 臆病者を演じ、チサちゃんを落ち着かせる。


 分かったよ。長生きするなら、多少弱虫なのがちょうどいいよね。


 自分でグイグイ行くより、後方から戦況を見守って、流れが変わるまでは壁役に徹する。


 うん。それがボクらしい生き方だ。


「遅くなっちゃったね。冒険者は翌日、ということで」


 明日、改めてパーティを組んで挑もうという話に落ち着く。

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