第68話 琥珀花《コハクバナ》のダンジョン

 薬草を数種類、舐めさせてもらう。


「ぐええええ!」


 どれも舌が拒絶するほど苦い。

 青汁のレベルを遥かに超えている。

 良薬口に苦しとは言うが、これは劇物だ。


「こっちは辛い!」

 チサちゃんが、口に手を当てて悶絶していた。

 香辛料にも使えるタイプの薬草を味見したのだろう。


 ボクも試す。


 うん、全然コクがない。

 香辛料ってもっと味わい深いんだけど、コレは噛んでも舐めても味を感じなかった。ただピリピリと辛いだけ。


 コショウなどと混ぜて味を付けて、ようやく口に入れられる程度だ。人間が飲んでいい物ではない。


「この味、どうにかなりませんか?」

「無理である」


 何百年も生きている天才エルフでも、さじを投げるレベルだった。

 そもそも薬草自体が、食用ではないのだとか。


「オレンジと混ぜるだけじゃダメ?」

「薬草では、苦みの方が勝つのである」


 ボクたちのポージュース作戦は、早くも暗礁に乗り上げた。

 もっと食用に適した材料を、仕入れる必要がある。


 ゼーゼマンが、「そうである」と、指を立てた。


 聞けば、チサちゃんが以前攻略した草原のダンジョンに、【琥珀花コハクバナ】という、甘い蜜を出す花が咲くらしい。


「琥珀色の蜜がとれることから、琥珀花という名前が付いたのである」


 薬草としての効果はもちろん、希少価値は高いという。


 しかし、それゆえに魔物も舐めに来る。

 強いモンスターが集まり、ダンジョンの危険度は年々増しているらしい。


「花の形状は、我しか知らない。我もついて行くのである。出かけるならギルドに連絡をしてほしいのである」


「ありがとう、ゼーゼマン。助かります」

「ともあれ、よかったね。チサちゃん」



 一旦冒険の準備をするために、帰宅する。

 セイさんが、なぜか真面目な顔で出迎えた。


「何かあった?」

「実は、チサ様が攻略なさった森のダンジョンに、再び魔物が現れました」

「どうして?」


 チサちゃんが聞くと、セイさんは一枚の紙を渡す。

 また課題が来たらしい。


 次から次へと、難題が降りかかる。


「やはり、森に新しいダンジョンができていたそうです」


 ギルドからも、森の調査依頼が来ていた。


「一度攻略したダンジョンに新たなモンスターが配置されるなどは、ありえません」


 では、普通じゃないことが起きている。


「おそらく、ロイリ・ス・ギル様の妨害工作かと」


 一刻も早く琥珀花を見つけないと、花の蜜がすべてモンスターに奪われてしまう。


 なら、挑むしかない。


「そうです。吉報もございますよ」

 オンコから連絡が来たのだ。


「ということは?」

「新しい装備、できた!」

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