第67話 薬師ゼーゼマン

 昼食も兼ねて、ルセランドの街に。


 エィハスの実家で、また食事を取る。もはや常連だ。

 バニングさんのはからいで、ボクたちは一生タダにしてくれるらしい。


 お米が普及するようになって、レパートリーも増えていた。

 チャーハンがあるのが嬉しい。ちゃんとお米がパラパラだ。

 唐揚げと一緒に食べると、口の中が幸せで満たされる。


「魔王サマの城でね、チャーシューを分けてもらったんだ」


 店番をしながら、エィハスが楽しそうに語った。


「それをチャーハンに合わせたら大好評で。チャーシューの作り方も学んで帰ってきた」


 あれ以来、エィハスもイノシシ狩りに精を出しているとか。


 他の客の皿にも、エィハス特性チャーシューが添えられている。


「キミらのおかげで、チャーシューは任せてもらうようになったんだ」


 干し肉の代用品として使おうとしたら、あまりの旨さにメニューの仲間入りを果たしたらしい。


 思わぬ所で、エィハスは才能を開花させた。


「ジャンジャン食べて、沢山子どもを産まないとね!」

 絶対、バニングさんは何か勘違いしているよね?


 店を出た後、ポーション売り場の空きスペースを借りる。

 ポージュースの試作品を作るのだ。


 売り場に、見慣れた老人が。

 ヒゲを撫でながら、難しい顔をしている。


「ゼーゼマン?」


 なんと、ゼーゼマンがポーションの商人に指示を出していた。



「このお店は、ゼーゼマンが管理しているんですか?」

「うむ。我が仕入れた薬草を、ポーションに加工しているのである」


 それで、チサちゃんと知り合いだったのか。


「これは毒消し、こっちは、マナだけを回復させる薬である」


 老人が指すビンには、緑と紫の液体が入っていた。

 どれも飲みたくない色をしている。


「本業は、薬師くすしですか?」


 薬売りなら、材料を採取するために冒険者スキルは必須だろう。


「あくまでも研究の一環である。本業ではないので、お役に立てないのが実情である」


 冒険者がメインで、採取はついでらしい。

 店売りのポーションなど、作る気にならないようだ。


「じゃあ、もうひと研究いかがでしょう?」

 ボクは事情を説明した。


「ほう、美味なるポーションとな?」

「うまくいくでしょうか」

「認知されるには、時間が掛かりそうなのである」


 ポーションとは本来、苦いものである。

 購入者も、そういうものだと認識して買う。


「チサ殿の発想は、まったく新しい試みであるな。面白いのである」


 老エルフは、好奇心に満ちたような顔に。


「協力していただけますか?」


「もちろんである。ただ」

 ゼーゼマンが、難しい顔をした。

「既存の薬草では、味に難があるのである」

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