第66話 ポ●ジュース
翌朝、ボクたちはいつも通り朝食を取っていた。
「チサ様、一大事にございます」
セイさんが血相を変えて食卓へ。
「どうしたの、セイ?」
「昨日の件なんですが、農家から報告がございます」
食後、ボクたちは農園に向かった。
お米は、まだできていない。そりゃそうだ。まだ稲ももらっていない。ゴマトマからの輸入に頼っている。
問題は、オレンジ農園で起きていた。
「なにこれ」
スイカクラスはある黄色い球を見て、ボクは息を呑む。
「突然変異した、オレンジにございます」
「これが、オレンジだって?」
そこで見たのは、とんでもない大きさのミカンだった。
ミカンはどれだけ大型化しても、せいぜい野球のボールくらいが限界である。
ところが一本だけ、ボーリングの球くらいのミカンが実っていた。
木の方も、他のミカンの木よりも太い。
「実は、課題指示書の他に、こんなものが」
真っ黒い紙が、指示書に混じって添えられていたという。
「ヱルダー・リッチからの詫び状だそうです」
無礼を働いたので、サービスをする。これで勘弁願いたい、との文章が。
「どうする、チサちゃん?」
「追い打ちはもうしない。どっちみち、ヱッチはこの世界には出禁にするけど」
とりあえず、味も見てみよう。
ヱッチのことだ。毒かも知れないし。
「うん、おいしい!」
大きいからもっと大味だと思ったけど、自然な甘味が口をすすいでくれる。
量が多くて、一口食べるとお腹いっぱいになっちゃう。
大家族用かな。でも、ジュースにもするんだっけ。
「あのさ、この土地のミカンって、形の悪いオレンジも使うんだよね」
チサちゃんはうなずいた。「ジュースにする」
「ポーションにも使うって聞いたけど?」
ジュースにするだけで、この量が消耗できるとはちょっと。
「皮に栄養成分があるから、香り付け程度に含ませている。でも、おいしくない」
地球の小説など、創作物にもよるけど、だいたいポーションはマズイというイメージがつきまとう。
「この際、スポーツドリンクみたいにジュースとして売ったらどうだろう?」
「いい感じ。飲み過ぎなければ、おいしいジュースと変わらないし、熱中症対策にもなる」
栄養満点のオレンジだしね。
「あ、でもちょっと待って。たしか、お薬ってオレンジジュースと一緒に飲んだらダメじゃなかったっけ?」
ボクの考えはボツかも。
「大丈夫。薬草とポーションは、役割が多少違うから」
ケガや病気を治すのは【薬草】だ。
【ポーション】は風邪薬でも、傷薬でもない。
直接治さず、自己の治癒力を「高める」効果があるという。
だとしたら、スタミナドリンクに近いかも。
また、体力回復剤の他に、マナを回復させるポーションもある。
「だから、成分はケンカしないはず」
チサちゃんのお墨付きをもらい、採用となった。
「あとは商品名」
「そうかー。ポーションのジュースだから……」
「うん! ポージュース!」
「ギリギリなところをついてくるね!」
危険な響きだけど、異世界だからいいかな?
こうして、ポージュースをビンに詰めて売ることが決定した。
「じゃあさ、絞りカスや皮は?」
チサちゃんがフリーズした。
「焼却処分ですね。灰にして、畑に撒くくらいでしょうか」
セイさんが、代わりに答える。
「それを、牛に食べさせませんか?」
愛媛県の農業では、実際にジュースの絞りカスを食べさせて、柔らかい牛肉を作っているらしい。
「いいかもしれませんね」
とびきり甘いポーションジュースを作り、ポーションはマズイという固定観念を叩き潰す。
牛などの家畜に、巨大ミカンの皮やカスを食べさせ、肉を柔らかくする。
この二大歯車で、生産系をクリアしようという作戦がスタートした。
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