第65話 ガールズトーク

「チサちゃんも、王様稼業がイヤになったコトってある?」

 興味深そうに、オンコが聞いてきた。


「ダイキがいるから、今は魔王が楽しい。冒険も好きだけど、それはダイキがいるからで」

 ハキハキと、チサちゃんは語る。


 ボクの存在が、チサちゃんのモチベーションになっていると、うれしいことを言ってくれた。


「けど、魔王になって何かしたいことがあるかというと、特に考えてなくて」

「魔王と言えば、世界征服なんじゃない?」


「自分の足で歩いている人々に、自分と同じ道を行けとは言いづらい。そこまでエゴイスティックな気持ちには」

 チサちゃんは、支配者にはほど遠い性格をしている。

 配下の自主性を尊重し、基本的に命令をしない。

 セイさんにだって、あれこれ指図をしなかった。


「そっかー。そういう生き方もあるよね」


 けど、全ての魔王がわたしのような思考ではない。

 支配者然として、襲いかかってくるヤツらもいる。


「わたしは、自分たちに害を及ぼす相手なら迎え撃つ。ただ、平和に暮らしている相手に牙は向かない」


「アタシ、チサちゃんが王様だったらなーって思うよ」


 オンコが言うと、王様が「こらこら」と苦笑いを浮かべた。


「冗談だって。親は変えられないしさ」

 豪快に酒をあおってから、オンコはチサちゃんにうっとりした眼差しを向ける。 


「ダイキのこと好き?」


「うん」

 オンコの質問に、チサちゃんは即答した。


「ホント? 友達としてじゃないよ。将来まで考えてって話だよ?」


「わたしは、ダイキと一緒に生きていきたい」

 チサちゃんも本気だ。


 オンコも、ここまでガチな言葉が返ってくると思っていなかったらしい。空になったグラスに口を付けかけた。


「そこまで、人生設計考えてんだ? 興味深いね」

 虚空を見上げ、オンコはまだ見ぬ殿方に思いを馳せている。


「あーあ、アタシも命をかける恋ってできるかなー」


「無理だな。運命は自分で勝ち取るものだ。人任せでは掴めない」 

 ワインが入ったグラスを回しながら、エィハスが確信めいた言葉を放つ。


「エィハスだって、もらい手いないじゃん」

「これからだっ」

「それにしても、女子の中で一番進んでるのが、チサちゃんなんてねー」


 酒が入っているせいか、オンコはエィハスと軽くガールズトークになった。なんか女子会みたいだな。


「こういうのは、巡り合わせだからな」

「まったくである。夫婦とは、気がつけば側にいるものである。吾輩も息子夫婦も同じだった」


 ゼーゼマンって既婚者だったのか。


「そうそう。エィハスにも白馬の王子様が現れるって」


「どうして私がモテない体で話をしている? 人のことより、自分の心配をしていたらどうだ?」

 エィハスが、空になったグラスをガンと置く。


「アタシお金持ちだもーん。いつでもお嫁さんになれるもーん」

「しょっちゅう城から逃げ出して盗賊稼業をしている女が、よく王族を名乗れるな」

「へっへーん」


 オンコが舌を出していると、王様が咳払いをした。


「黙っていたんだがな、オンコ。この間いらしゃった、ルセランド出身の貴族からの縁談だがな」

「ほっらー。引く手あまた、ってこのことだっての」


「めでたく破談になったぞ」


「な、なんですと?」

 オンコの顔が、信じられない、という表情に。


「お前が大事な顔見せの時に、留守をしたからだろ! どこまで無礼なんだ! お見合いより冒険を優先する王族がどこにいる!」


「あっちゃー」

 あれだけドヤッていたオンコが、急にシュンとなった。


 会食も終わり、ボクたちは家路へ。


「今日は楽しかったよ。装備ができあがったら連絡するからね」

「ごちそうさまでした。ではまた」

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