第64話 オンコの気持ち
ドワーフの城は、外見は和風で、内装は洋風だった。
食卓も長テーブルである。
来客が多いから、外の文化に合わせたらしい。
「お食事ですよー」
メイドさんたちが、山盛りの料理でもてなしてくれた。
野菜の煮物と、サイコロ状に切られた分厚いステーキである。
焼き魚の見た目はホッケに似ているが、長テーブルを三分の一は埋め尽くしていた。
王族にしては庶民的なメニューばかりが並ぶ。
帰郷したときにドッサリ出される夕飯のイメージだ。
「お前たち。労働者の食事ではないのだぞ? 無礼ではないか」
「ぜーんぶアタシの指示」
王様はメイドたちをたしなめるも、オンコがフォローに入る。
「オンコ、お客様なのだぞ。丁重にもてなさねば」
「ガツガツ食ってお腹いっぱいになる方が、お客さんもうれしいでしょ? カッコつけてチョロッとしかない料理を出したって、つまんないじゃん」
オンコは、窮屈な王族生活が気に入らないという。
「いえいえ。どうぞお構いなく。いただきます」
お金持ち然としてなくて、実に親しみやすい。
ボクはこっちの方が好みである。
とある一皿に、ボクは歓喜した。
「おにぎりだ!」
皿に盛り付けられたご飯のカタマリに、ボクは真っ先に手を伸ばす。
なんの変哲もない塩むすびだ。
それでも構わない。存分に米の味を噛みしめる。
「んふー」
思わず、ため息が漏れた。
「ほう。気に入っていただけたようで」
「はいっ! お米大好きなので!」
口に飯を溜め込んで、ボクは王の問いに答える。行儀が悪すぎるけど、許して欲しい。
「ダイキがうれしいなら、わたしもうれしい」
チサちゃんも、ご飯粒を頬にくっつけている。
「おいしいね、チサちゃん」
「うん。ダイキ。これは、二人で勝ち取った味」
チサちゃんはボクの頬からご飯粒を取って、自分の口へ。
ちゃんと、ボクもお返しをする。
「ほほえましいなー」
うっとりした表情で、オンコがボクたちを眺めていた。
「チサ殿、申し訳ない。娘がもてなしの作法を知らず」
「たまには、こういうのもいい」
王様は詫びるが、チサちゃんも気に入ったようである。
「ウチは庶民派だからね。王族は厳格なんだけど」
「ボクは、こういったワイワイする食事が好きだよ」
「そう言ってもらえるとうれしいねー」
オンコが、角切りステーキをおにぎりと一緒に口へ運ぶ。
「アタシもこういう風景が好きでさ、毎回勝手に家を出るのさ」
城の生活は、想像以上に窮屈だという。
自分はいずれ、どこかのエラい人に嫁がねばならない。
ならいっそ、今のうちにやりたいことを全部やってしまおう。
そうオンコは考えた。ドレスを捨て、彼女は冒険者に。
屈強なドワーフなので、めったなことでは負傷しない。
とはいえ、自分は姫なので、斧を振り回すと目立つ。
ドワーフ特有の器用さと、普段からコソコソとイタズラをしていたので、正面からのバトルよりシーフなどの探索職を好んだ。
罠だらけの宝箱を開けるときのスリルは、どの勉学よりも夢中になった。
「そのうち、自分で思っていた以上にのめり込んでさ。今は、冒険者以外の自分は考えられないなって」
エィハスやゼーゼマンと組んで、その思いはより一層強くなっている。
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