第62話 和装

「広いねーっ!」


 スパリゾートなんて目じゃないくらいの広大さである。

 さすがに大人数のドワーフが使うのか、それともドワーフの芸術性が冴え渡ったのか。


 石けんも潤沢である。オレンジの香りがした。

 チサちゃんの村で採れたオレンジを、香り付けに使っているらしい。


 洗いっこを終えて、チサちゃんと共に湯船へ。


「熱いね」


 皮膚が赤くなるくらい、お湯はアツアツである。

 ゆでダコになりそうだ。


「一〇〇数えられないかも」

「無理しなくていいよ。本当に熱いから!」


 ドワーフは熱湯好き。覚えたぞ。


 だが、さすがにチサちゃんには熱すぎた。露天風呂へ向かう。


「ここは、湯加減がちょうどいいよ」

 チサちゃんと、湯を堪能する。


「まったくである」

 右方向から、聞き慣れた声が。


「だねー」

「確かに、内湯は熱すぎるのだ」


 え、ちょっと待って。

 どうしてオンコとエィハスの声まで聞こえてくるの?


「ひゃあ!」

 エィハスらしき悲鳴が、左方向から聞こえた。


「どどど、どうして女湯と男湯が繋がっているんだ!?」

「え? アタシらフレンドじゃん。ハダカの付き合いってヤツ?」


 唯一、動揺していない女性が、ただ一人。

 オンコは見られても平気な顔をして、リラックスしている。

 ボクの正面で!


「どうして真正面に回ってくるかなぁ!」


「チサちゃんと一緒に入りたくってさー」

 アハハ、と豪快にオンコは笑う。


「ゼーゼマン?」

「うむ。ダイキ。どうやら、露天風呂は、混浴風呂を通して繋がっておるようである」


 そうらしい。


「露天風呂は家族用の風呂なんだよ。一族みんなで入るんだ」


 家族なら仕方ないとして、パーティで入るような風呂じゃないと思うけど!


「面妖な。そちらを向いたら、ドワーフ族に処刑されそうな気配が」

「そ、そうだな。こっちを向かないでいただけるとありがたい!」

「謎の湯気で、誰の身体も見えぬ。ご安心めされよ」


「人がいるってだけで気になるから!」

 エィハスがパタパタと湯から上がってしまう。


「ふむ。ならば我も」

 続いて、ゼーゼマンも退席した。


「チサちゃん、どうしようか?」


「おなかすいた」

 空腹が勝ったらしい。


「じゃあ、アタシも上がろっと」


 パーティの全員が、風呂を後にする。 


 お風呂から出ると、着替えが置いてあった。



 羽織と袴だ。



 ボクは装備をアイテムボックスへ戻し、着物で身を包む。


「すごく似合ってるよ、チサちゃん」


 ミニ浴衣姿のチサちゃんは、襟や裾に淡いパープルのフリルがついていた。


「かわいい」

 着ているチサちゃんも、気に入ったみたい。


 外に出ると、ゼーゼマンも袴姿である。


 エィハスは黄色、オンコは赤い着物だった。


 みんな和装か。


「父がお礼を言いたがっててさ。行こうか」

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