第60話 魔王からの指令

「話は分かった。その上で、一つ聞きたい」

 指を一本立てて、チサちゃんがヱッチに質問した。


「どうぞ」



「エィハスが傷ついた。それはプランの一つか?」

 尋ねながら、チサちゃんはヱッチを外に出す。




「個人的な事情だ。言っただろ。女の子になりたいと」


「たったそれだけの理由で、わたしの友達を危険にさらした?」



「冒険に、犠牲はつきものだ。キミらも冒険者なら、それくらいの覚悟はできているだろ?」



 やはり、彼は敵だ。



「ギルティ。ダイキ、【スキル:黒龍拳】発動!」


 ボクの両手に、黒い龍の模様が浮かぶ。

 両腕が、目の前の敵を打てと命令してくる。


 指図されるでもなく、ボクは戦闘態勢に。


「うおお!」


 ボクは容赦なく、エルフゾンビに連続パンチを浴びせた。

 急所とは言わず、全身スキマなく拳をぶつける。



「なぜだあっ!」



「仲間を傷つけるヤツには容赦しない!」

 トドメに、全力アッパーを叩き込んだ。



 エルフのゾンビは、空高く舞い上がる。


 突然、ブラックホールのような空間が、空に現れた。


 力を失ったエルフゾンビは、ブラックホールに抵抗せず、吸い込まれていく。


「あのゾンビは? 逃げた?」

「パパが回収した」


 改めて、冒険者ギルドにヱッチ討伐を報告する。


「おめでとうございます、ダイキ様。レベルが五アップしましたよ」



 またスキルポイントが増えたけど、まだ使わない。

 試練があるって言うなら、温存しておこう。

 時が来たら、一気に。


「では明日、装備を必ずお持ちください。強化させていただきます故」


「はい。よろしくお願いします」


 ドワーフたちは帰って行く。


 残ったのは、ギルドの職員だけ。


「申し訳ありません、チサ様。なんなりと処罰を」

 受付嬢が非礼を詫びた。


「処罰はヱルダー・リッチに全部押しつけた。ギルドはパパに利用されていただけ。それでいい」


「ありがとうございます。今後、このようなことのないように努めます」


「お返しはパパに全部やり返す」

 チサちゃんが、空をねめつける。




 夕方、ボクたちの元に魔王から課題が出されていた。

「チサ様、これを」

 セイさんから、紙を渡される。


「指示書によりますと『生産スキルで無双せよ!』とのことでした」


 無双って言われても。


「村の生産物は、オレンジと麦、カボチャ。畜産は鶏がメイン、肉牛と乳牛が少々」


 それ以外の産業は、パッとしない。

 オレンジのジュースは売れているが。


「まさか、大きいカボチャを育てて売りましょうってのはないよね?」


 地球では、農家の人がオバケカボチャを作る競争をしているけど。


「競技性は求められていない。売り上げや市民への貢献度が一番大事みたい」


 成果主義なんだね。


「ボク、生産職スキルなんてロクなの取ってないよ」


 せいぜい、地球のリアル知識があるくらいだ。

 しかし、この地で通用するかどうか。


 その成果は、後日試されることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る