第59話 真のヱッチ

「なぜ、そうお考えで?」


「考えたくないけど、職員はアンデッドに脅されている?」

 疑問符を入れるあたり、チサちゃんでもここまでが限界のようだ。


「お見事です。さすがは魔王サマ。正解でございます」


 ギルドは、とある『存在』に協力させられていたという。

 街を占拠されているなら、一刻も早くアンデッドを倒し、解放しないと。


「アンデッドはどこ? 居所を教えてくれたら、やっつけにいく」

 チサちゃんが、受付嬢に同情の眼差しを向ける。




『その必要はない』




 ガタガタ、と棺が暴れ出した。

 中からヱッチが立ち上がり、黒い霧となって渦を巻く。


 何事かと思って、状況を見守っていると、ヱッチは人間のサイズへと変わる。


「この姿こそ、我が真の姿だ」


 ポーズを取っているのは、オルエーの森で死んでいたウッドエルフだった。

 ただ、敵意は感じない。


 エィハスたちが、身構える。


 だが、エルフは手をあげて、無抵抗のポーズを取った。


「刃を向けんでくれ。もう戦う気はない。数々の非礼は詫びよう。すべては我が王、魔王『ロイリス・ギル』と、父なる玉座『亜神ア・ジン』のため」


 亜神ア・ジンという言葉を聞いて、チサちゃんが顔を強ばらせる。


「ジアン?」

「ア・ジンだ」


 ボクが聞き返すと、ヱッチが訂正した。


「チサちゃん、ロイリス・ギルってもしかして?」


「ママ」


「じゃあ、亜神っていうのも?」


「そっちはパパ」



 いよいよ、チサちゃんの親が出てくるのか。



「おめでとう、チサ・ス・ギル。キミは、王への挑戦権を得た」

 いいながら、ヱッチが手を叩く。


「王への挑戦権って、なんですか?」


「聞いての通りだ。この王位争奪戦は、途中から王の干渉が入る。地球で言うと『実力テスト』のような試練だ」


 ロイリス・ギル及び亜神ア・ジンという玉座は、子どもの成長具合を確かめるために、訪問しに来るという。


「貴君らの今までの行動はすべて、冒険者ギルドを通して亜神へ情報が通っている。その上で、試練によって適性度を測ろうというのだ。詳しい試練内容は追って連絡をする」


「子どもを放置しておいて、今さら実力テストか?」

 語気を強め、ボクは不快感を吐き出す。


「そう言うな。繭の中で一〇〇年チュートリアルしていることを忘れてはならぬ」


 よく考えたら、そうだった。チサちゃんは見た目が子どもだけど、中身はもう大人なんだ。


「ゲームでも、たまにあるだろ? 規格外の強敵が出てきて、主人公サイドが、たとえ負けなくてもボロボロになる展開が。その役目を、我々がやってあげようというのだよ」

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