第58話 すべては仕組まれたワナ

 チサちゃんがドンと、ギルドのスイングドアを蹴り飛ばす。


 何事かと、ギルドの職員や冒険者たちがざわつく。


 エィハスたちも後へと続いた。最後にボクがギルド本部へ入る。


 冒険者らは全員、ボクが担いでいる棺に注目していた。

 ヱルダー・リッチが眠っていると分かっているんだ。


 相当、チサちゃんは怒っている。

 顔は無表情だが、放たれるマナは焼けるように熱いヘタに触れたら、焼死してしまいそうだ。


 チサちゃんが、抱っこしろとボクに催促してくる。

 カウンターに背が届かないのだ。


 よいしょと、ボクはチサちゃんを持ち上げる。


「ヱルダー・リッチを討伐してきた」

 ギルドカードを見せて、チサちゃんがカウンターに肘を置く。


「えっ、ヱルダー・リッチなんて出てきたので?」


「とぼけないで。それは想定の範囲内のはず」

 珍しく、チサちゃんの言葉にはトゲがあった。


「おっしゃっている意味が、よく分かりませんが?」


「しらばっくれてもムダ。すべては仕組まれていた」

 チサちゃんが推理を展開する。


「わたしは、ずっと気になっていた。薬草知識があるのに、どうしてエルフがヤクソウモドキにやられたか」


 確かに、オルエーの森でエルフは死んでいた。

 だが、エルフからの依頼はなかったのである。


「ゼーゼマンさんから聞きました。エルフって、街に住むシティタイプと、森に住むウッドタイプというのがあるそうですね?」

 ボクも、受付嬢に詰め寄ってみた。


 おそらく、よそから来た冒険者か、シティエルフという街に住むエルフかも、と考えられる。


「シティエルフなら、薬草の知識を忘れているかも知れません。だから犠牲になったなら分かります。でも、ボクたちが見たエルフは、森に入る出で立ちで弓まで携帯していました」


 ウッドエルフという種族だ。ならば、薬草知識はある。


「自殺も疑った。でも長寿のエルフが自殺なんて考えにくい。ましてやモドキに殺されるなんて面倒な死に方は選ばない」




「魔王サマ。つまり、何をおっしゃりたいので?」

 冷や汗をかきながら、受付嬢はチサちゃんの言葉を待つ。





「最初から死んでいた。つまりアンデッド」


 受付嬢が唇をワナワナと震わせる。正解だったようだ。



「エィハスの傷は浅かった。まるで見計らったかのように。多分、わたしたちにエィハスを助けさせるために、誰かが仕掛けた試練なのではないかと」



 ただ、エィハスは何も知らされていなかっただろうと、チサちゃんは付け加えた。


「以上の点から、導き出せる答えはひとつ」


 見た目は幼女、頭脳は魔王の名推理が冴え渡る。 





「犯人は冒険者ギルド。職員全員がグルになって、わたしを謀った。依頼人は、森で待ち構えていたアンデッド」

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