第56話 ヱッチ討伐!

『なにをこしゃくな魔王。貴様も我が欲望の糧としてやろう』

 末期の一撃をチサちゃんに浴びせようと、ヱッチは巨大な死神の鎌を手に召喚する。


「楽には死なせない」

 チサちゃんは、ボクの手に自分のマナをまとわりつかせた。


「これであいつを殴って。ダイキ」

「分かった」


 スコップを背負い、ボクはボクサーの構えを取る。


「ダイキ、【スキル:黒龍拳】発動!」


 そう指示されただけで、ボクはマッハ速度でパンチをヱッチに連打していた。


 死神の構えすらものともせず、ボクはヱッチの顔面や全身に、拳を叩き込む。  


『ひー助けてぇ!』

 ボクの連続パンチを浴びて、ヱッチが悲鳴を上げる。


「そらああ!」


 トドメのアッパーで、ヱッチが宙を舞う。

 盛大にキリモミして、地面に落下した。




【ヱルダー・リッチ討伐確認! ゴマトマ鉱山エリアが解禁されました】



 頭の中に、メッセージが流れる。

 どうやら、ヱッチを倒したことにはなったようだ。



 倒れているヱッチに、ボクは追い打ちを掛けようとする。


『降参だ!』

 ヱッチは降伏した。


 だが、ボクに攻撃の手を緩めるつもりはない。

「容赦しない! エルフを殺した罪、償ってもらうぞ!」 


『だってあれは我じゃないもん!』


「なんだって?」

 ボクはパンチの構えを解く。


 顔をかばいながら、ヱッチはうずくまる。


「ウソだ。お前は、ヤクソウモドキでエルフを殺害しただろ?」


『そんな恐ろしいことなんぞするか!』

 ヱッチは、ボクの質問にも否認で返す。


「あんたの欲求も随分恐ろしいんだけど?」

『死した身故に、思考の制御が聞かぬのだ』

 オンコのツッコミに反応する元気はあるようだ。


「死を弄ぶ存在ではないと?」

『そもそも、あのエルフは男だった! 胸がなくてもわかる!』


 もう一度、ボクはヱッチを殴りかける。


「ねえねえヱッチさんよ、その子って美少年だった?」

『男の美醜に興味はないが、醜くはなかったかと』

「よし、真犯人捕まえよう!」

 どういうわけか、やたらとオンコが気合いを入れ始めた。


「すまない。オンコのヤツはカワイイ存在に目がなくてな」

 さりげなく、エィハスがフォローを入れた。


「ヱルダー・リッチはどうしよう?」


「参考人として生かす。ただし、悪さはできないようにする。審判はルセランドのギルドに委ねる」


 話し合いの結果、棺をギルドへ持ち帰ることに。


 棺は案外軽くて、ボク一人でも持ち運べた。


 ボクにかなわないと思ってか、ヱッチはおとなしくしている。


 ボクたちがダンジョンの出口まで戻ると、小さいオッサンの集団が押し寄せてきた。


「ひめさばあああああ!」


 中でも、一際ひげもじゃの筋肉ダルマが、なんとオンコに土下座する。

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