第55話 黒龍のウロコ

 通用した。ボクの攻撃が利いているぞ。


 さっきもらったタスキが効果を発揮したんだろう。


 とはいえ、所詮は素人の動き。

 ダメージは少なく致命傷には至らない。


 もう少し様子を見たいけど、遊んでいるわけにもいかなかった。


 ヱッチの放った死霊が、ボクの心臓部に飛びつく。


 魔獣の革に吸い寄せられ、死霊は逆に消滅した。


 そういえば、セイさんから

「魔物の吐くブレスや魔法攻撃を弾いてくれる」

 と解説を受けたっけ。


 半信半疑だったが、魔獣の革は本当に魔を退ける効果があるらしい。


『なんと、死霊すら退けるか!』

 死霊でのけん制を辞め、ヱッチはカマで切りつけてくる。


 人間の反応速度を遙かに超えたカマが、斜めに飛んできた。

 よけられるか?


 だが、カマは黒いバリアに阻まれ、止まった。


『ばかな、【黒龍鱗こくりゅうりん】だと!?』

 聞き慣れない言葉を、ヱッチが叫ぶ。


 黒龍拳ならマスターしているが、身体までドラゴンのように硬くなったってコト?


 何事かと、ボクは、肩の辺りをよく目をこらしてみた。


 透明な六角形の板が亀甲状に並び、肩の上でフヨフヨ浮いている。追加武装かな?


「チサちゃん、なにコレ?」


「スキル【黒龍拳】所持者に発動する、自動追尾バリア」


 黒龍拳の使い手って、バリアまで張れるのか。


『なんと、正体を知らずに使っていたのか! 恐ろしいヤツ!』

 ヱッチが後ずさった。

 空いた手をかざし、遠距離から魔力弾を撃ってくる。


「なんで人を襲った?」

 魔力弾をすり抜け、ボクはヱッチに肉薄した。

 スコップで斬りかかり、今度は大ダメージを負わせる。


『できればエルフが欲しかった! でも、女戦士もあり!』

 相手の気持ちも考えず、ヱッチは欲求を吐き出した。


『エルフと言えば合法ロリ! 幼いエルフを手に入れれば、小さいまま永遠におのれを愛でることができる! 永遠に若さを保てるのだ!』

 自分勝手な欲求を、ヱッチは垂れ流す。


「ココのエルフは、普通に年を取るぞい」

 ゼーゼマンが帽子を取る。彼の耳は尖っていた。

「ちなみにワシは二〇〇歳である!」

 特に長寿という種族ではないらしい。

 

 ボクからしたら、十分長生きしていると思うけど。


「訓練をして高いマナを得ておるなら、若さを保てよう。しかし、そうでないなら単に長寿なだけの種族である」

『なんと! 我の知っているエルフと全然違うじゃないか!』

「お主が勝手に妄想しておるだけである!」


 苦悩するヱッチにスキができた。


 ボクは、一気に畳み掛ける。


『ぐはあ!』

 浮遊していたヱッチが、地面に落ちてきた。

 肩で息をしている。


 魔法障壁を抜け、チサちゃんがヱッチに歩いてきた。 

「お前のせいで尊い命が失われた。その報いは受けてもらう」

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