第53話 L.O(Lost Ownership)のヱッチ

 途中に現れるモンスターはエィハスが片付けていく。


 洞窟を抜け、大空洞に出てきた。


 そのエリアだけ、何の細工もされていない。

 外壁もなく、あるのは小さな祭壇だけ。

 足場は広いが、それでも心許ない。

 祭壇の真下に、深い崖が口を開けているからだろう。

 何より、天井から日が差し込んでいる。


「ここは火口かな?」


 天井に丸い穴が開いていた。

 ここは、火山の噴火口なのだろうか。


「噴火の跡。ドワーフたちの空気穴として利用されてる」


 チサちゃんが説明をしてくれた。


「じゃあ、この祭壇は?」


 祭壇の上には、棺が置かれている。


「モンスターが悪さをしている」


 ボクたちは、すかさず武装した。


『この神聖なる土地に足を踏み入れるのは、何者だ?』


 棺のフタが開き、中から暗雲のような煙がわき上がる。


「出やがったよ!」

 オンコが凄い力で、ボクたちを押して下がらせた。


 そうしなければ、ボクたちは飛んできた棺の下敷きになっていただろう。


 黒い煙が実体化し、みすぼらしいローブを纏ったガイコツに変わった。


『我が名はヱルダー・リッチ!』


 古のアンデッドは、自己紹介をするとくるりと一回転し、アイドルのようなポーズを決める。



『略して……ヱッチ』



 そのまま!




「ダイキ、あれは【L・O】。元魔王候補」



 一度敗北した元魔王候補は、L・O、正式名称【Lost Ownership】というボクモンスターになる。

 再び返り咲こうと、魔王の座を虎視眈々と狙うのだ。


 なるほど「所有権を失った者たち」ね。


「森で何をしていた? エィハスを狙った理由は何?」


 相手は魔王のなり損ないだ。

 力を蓄えるため、強い戦士の力が必要だったのかも知れない。


「強さを取り戻すのが目的? それとも、吸血してアンデッドにしようとした?」


『女の子に生まれ変わるためだ!』


 畳み掛けるようなチサちゃんの問いかけに、ヱッチは最悪な返答をした。


『せっかく女戦士の脳みそにカビを生やして、乗っ取ろうとしたのに!』


 ガチでロクでもない。


「随分と安っぽい理由で狙われたのだな、私は。それに引っかかってしまったのは情けない」

 エィハスが、憔悴しきっている。


「ひくわー」

 オンコは呆れていた。


「それでも、ヱルダー・リッチとは。とんでもない怪物が現れたのである」

 ゼーゼマンは、緊張を解かない。


「ヱッチのレベルは三五か。平均レベル二〇未満のウチらでどうにかできるレベルなん?」

「難しいのである。チサ殿だけが頼りである」


 歴戦のエルフが弱気になるほど、このエルダー・リッチは強いようだ。


「思考はクズなのに実力モノホンって、一番タチが悪いねっ!」

 ゼーゼマンとオンコも、ドン引きである。

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