第50話 ガクブルチサちゃん

「灰になったんじゃないのか?」


「それでも、マナの痕跡は残るのである。つまり、まだ動いている可能性がある」


 まだ、ゾンビとして彷徨っているのだろうか。


「ガクブル」

「ん?」

 ボクの手を掴むチサちゃんの力が、つねるくらいに強まる。


「オルエーの森に住むエルフ共に、死んだエルフの素性を尋ねに行ったら『そんなヤツは知らん』と突っぱねられたのである」


「薄情だな、エルフにしては」

 エィハスも、奇妙さを感じているらしい。


「左様。おかしいのである。エルフは基本的に、同族には愛情のある種族である。なのにあの態度ときたら」


 では、あのエルフは何者だったのか?

 という論説が、ゼーゼマンとエィハスとの間で始まる。


 チサちゃんの方を確認すると、目が泳いでいた。


「もしかして、チサちゃんはこういうホラー話はキライ?」

「正直得意ではない」


 意外だった。オバケの類いが苦手とは。最強の魔王なのに。


「だたのアンデッドなら問題はない。呪いや怨念の類いは、自分にも降りかかる。取り憑かれたら厄介」


 ガチのファンタジー世界だもんね、ここは。 


「それにしても、ドワーフさんはいないね」


 鉱山が手に入ると、ドワーフという小さい力持ちの種族が配置されると説明を受けたけど。


「種族はボスを倒さないと、ちゃんと実装されない」


 実装って、ゲームみたいに。


「じゃあエルフは、チサちゃんが森を攻略したから住み始めたんだね?」


「そう。小規模の森だから、比較的容易だった。いわゆるチュートリアル」


 領地を制圧して、種族を解禁していく仕組みなのか。森でも思ったけど、ゲームみたいな世界観だ。


「あの霧の向こうに、みんなが捕まっているんだ」

 オンコが鉱山の隣を指さす。


 不自然な霧が、鉱山の向こう側に立ちこめていた。

 何かをスッポリと覆い隠すように、四角く霧が登っている。


「ドワーフたちは、あの霧の向こうに全員倒れていたんだ。お腹が動いていたから、息はしてる」


 だが、霧を叩いても蹴っても、オンコは霧の奥に入れなかったらしい。


「急ごう。ドワーフが大変な目に遭っているなら、救い出さないと」

「もっともである」


 エィハスとゼーゼマンが、足を速めた。


「あれ、オンコ?」

 オンコが、霧の方角を凝視している。


「やっぱり、仲間がどうなったか、気になる?」


「え、えあっ、うん」

 歯切れの悪い返事が返ってきた。


「それより着いたよ、みんな」

 灰色の景色から一転し、暗い洞窟が口を開けている。


「ここがゴマトマ鉱山のダンジョンか」

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