第49話 好奇心

 四人で、岩山を徒歩で登っていく。


 山は木々が生えておらず、表面もゴツゴツしている。

 傾斜は緩く、登るのは苦じゃない。

 ただ、同じ灰色の景色が続くので、やや退屈だなとは思った。


 山から下を見下ろす。ルセランドの街が、もう豆粒ほどにも小さい。


「森の方はどうだった?」


 ボクが聞くと、オンコはうーんとうなった。

「それがね、何もなかったんだ」


「実に珍妙な事件であった」


 オンコとゼーゼマンも、調査隊に加わったという。

 しかし、ヤクソウモドキの痕跡以外、何も怪しいところはなかった。


「我がエルフの森を荒らす輩を退治したかったのであるが。敵はどうやら、森をただの実験場として利用していたようである」


 しかし、ボクたちのマナ放出を目撃し、行方をくらましたのでは、という。


「で、この山に逃げたんじゃないかって」


 オンコたちも、仕事の一環で洞窟を調査するのか。


「本当は、ダンジョンに入ってみたいだけ、とか言わないよな?」

 からかい混じりに、エィハスはベテラン冒険者に話を振る。


「そりゃあ、ダンジョン探索がメインだけどね」

「うむ。事件調査は二の次。未知のエリアに初の足を残す。冒険者の誉れであるぞ!」



 溢れる冒険者魂を、まったく隠そうともしない。二人とも、好奇心旺盛な子どものようだ。


「それを聞いてホッとした。実は、私もさっきから気分が高揚しっぱなしでな。危険に飛び込むというのに。不純な動機でドワーフ救助に加担していいものかと」


「いいのいいの。ドワーフは基本、おおらかだから」


 エィハスもダンジョンが楽しみでしょうがないらしい。


「エルフの森を平気で襲うモンスターが相手だよ。怖くないの?」


 ボクが聞くと、ゼーゼマンはフンと鼻を鳴らした。


「そんなもの、管理していたエルフ共の怠慢である。あんな子どもに調査を任せるなど」


 同族相手に、実に辛辣な意見である。


「なまじ自分たちが強いと過信してあのザマ。少しは目が覚めたであろう。自分たちの及びもつかぬ悪意がすぐそばに迫っていると」


 ゼーゼマンは、故郷にあまり愛着はないらしい。


「ワシが後悔しているのは、エルフの子どもが犠牲になったことである」


 故郷には冷たい言い方をしたゼーゼマンも、落ち込んだような表情になる。


「死んだエルフは未熟な研究者だったらしい。それをモンスターに騙され、ヤクソウモドキに手を出したのではないかと」


『ヤクソウモドキといえど、飼い慣らせば強力な魔法の触媒になる』

 と、モンスターにそそのかされた可能性が高いという。

 もっとも、そんな事実はない。


「アレは辛かったな。身を守るための行為とはいえ、申し訳ない」

「そんな! エィハスは仕事をしたのである。気に病むことはなかろう」


 エィハスが頭を下げたので、ゼーゼマンは恐縮した。



「それに、妙なこともあったのう。オルエーの森へ確認に向かったら、死体がなくなっていたのである」

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