第42話 自宅警備員 ドレン

 セイさんの案内で地下の宝物庫へと進む。


 先頭を歩きながら、セイさんは廊下のランプに魔法で火を灯していく。


「こちらです、大毅様。ここにあるマジックアイテムは、すべてご自由にお使いください」


 ボクの身長より高いドアが、終点に鎮座していた。


 鍵穴に手をかざし、セイさんが魔力を込めて扉の鍵を解除する。


 ギギギ、と鈍い音を鳴らし、宝物庫の扉が開いた。

 扉は分厚く、二メートルはあると思われる。


 ボクは語彙力を失った。頭の中が「すごい」で埋め尽くされる。


 ファンタジー系のアニメなどでしか見たことがない武器や装備品が、所狭しと並んでいた。

 炎が刃になった剣、氷山を加工した槍、竜巻をまとう鎧なんかもある。


「このカブトは何だろ?」

 何の変哲もないフルフェイスを手に取った。


「それは触ったらダメ。意識を乗っ取られる」


 よく見ると、カブトの影で何かが笑っている。

 これは触らない方がいいな。

 できれば一生宝物庫で眠っていて欲しい。


「ほーっ。珍しい客がいたもんだ。人間とはな」


 部屋の奥で、誰かが語りかけてきた。

 人の気配じゃない。モンスターだ。

 ボクにも、人とモンスターの気配が分かるようになっている。


「それはスキルのおかげ。自動的に【スキル:物質会話】を発動している」


 ある程度状態のいいマジックアイテムと、軽い意思疎通ができるスキルなんだという。


 奥へ進むと、赤いドラゴンの像が飾られていた。


 ドラゴンというか、超合金ロボットと形容した方が早いか。目や髭に至るまで、アチコチのパーツがメカニカルなのだ。


 二〇メートルはあるドラゴンが、壁を背に寝そべっている。何が面白くないのか、時々ため息をつく。


「久しぶり」

「よお、嬢ちゃん。そいつがお前さんの玉座だな?」


「あなたは、双六に出てきたドラゴンですね?」


「そうだ。オレはドレン」と、ドレンは肯定する。


 チサちゃんが、ボクを手で指し示す。

「彼はダイキ。仲良くしてね」


「へっ、どうだろうな」

 せっかくチサちゃんが要求しているのに、ドレンはあまり愛想よく振る舞わない。

 子どもでも容赦しないタイプなのかな?


「像の形をしているようですが?」


「本来の力を封印されててな。ガーゴイルみたいな役割をしている。有事の際は、実体化する。今じゃすっかりやる気と力をなくしてしまって、あのザマだが」


 それでも、相手方の玉座では分が悪いだろう。


「どうして、やる気までなくされたので?」

 ドラゴンなら、もっと自信満々でいてもいいはずだけど? 実際、強そうだし。


「彼は以前に、この世界を支配していた前魔王の玉座でした」


 ドレンの代わりに、セイさんが答える。


「おうよ、共に天下を取ろうって約束した間柄だった」


 実際、相当強い魔王候補だった。

 もっとも新生魔王に近い存在だったとか。


「けどよ、勇者に目を付けられて、負けちまった」

 それ以来、二度と余計なマネはすまいと、チサちゃんの玉座になる権利すら放棄したらしい。


「ボクがいなかったら、あなたが玉座になっていた可能性も?」


「無理だったろうさ。オレ様と前の魔王は相性が良すぎた。チサ公じゃ話にならんほどに」


 そういえば、肝心なのは相性だって聞かされたっけ。

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