第30話 リアルすぎるジオラマ

 開始早々、勝手にコマが動く。


 戦況を、マミちゃんがニシシと笑いながら見守る。


「あのコマ一個につき、本物の兵隊一〇〇〇人分の戦力だと思っていてください」


 妙に、動きが生々しい。本当に動いているみたいだ。


 ジリジリと、お互いが陣営に近づいていく。 


 チサちゃんチームの弓兵が、いきなり飛び上がった。

 ジャンプした状態のまま弓を構え、マミちゃん陣営に向けて矢を放つ。

 しかも、一度に三本も。


「グワー!」

 マミちゃんチームの兵隊が、数名吹っ飛ぶ。


「飛距離プラス二のスキル、やるわね!」

 弓矢攻撃をすり抜けた兵隊が、弓兵を槍で突き刺す。


 だが、その槍兵も、控えていたチサちゃん側の歩兵に剣攻撃で斬られた。


「無念!」

 自軍の弓兵と、相手陣営の槍兵士が、光粒となって消える。


 ボクの知ってる砂遊びと違う!


 これが、この世界で言う戦争なのか。

 なんか、将棋だかボードゲームだかみたいだな。


「本当に、どこかで誰かが死んだりしてませんよね?」

「私も、初めて見たときに、同じような感想に至ったものです」


 ケイスさんは慣れた様子で、ストローを使ってジュースを飲む。


「あの兵隊たちは、ただのイメージをコマに吹き込んでいるだけ。魔王の魔力が具現化したにすぎません。誰も傷つかないのです」


 魔王は、魔力をおおっぴらに発動できない。

 すれば世界に影響が出てしまう。

 実にストレスがたまる環境なのだ。


 よって、このようなルールが考案された。

 これなら、好戦的な魔王も満足する。


「実際に人が死んでいないので、実に平和な戦いです」

 先輩玉座であるケイスさんの意見に、ボクもうなずく。


 見た感じは、ちっとも平和的ではないけど。


 兵力はマミちゃんの方が二割ほど上だ。

 しかし、戦略的にはチサちゃんが上回っている。

 滝の水をせき止めて相手に水攻めをしたり、森を利用したゲリラ戦法で、マミちゃん陣営を蹴散らす。


 一方、マミちゃんは玉砕覚悟の攻撃だ。

 戦略も何もない。

 兵を失いつつも、着実にチサちゃんの戦力を削いでいった。


 だが、智恵を使ったチサちゃん側が、徐々にマミちゃん側を追い詰めていく。


「押せ押せよ!」

 自軍のスフィンクスを、マミちゃんは前進させる。


「マミ様、スフィンクスは自陣営の本丸ですぞ。最強のコマでありながら、絶対に壊されてはいけない拠点です」


 動く拠点というのもあるのか。


「あなたは口を挟まないで! ようは勝てばいいのよ」


 マミちゃんがケイスさんを罵倒する。


 あそこまで言わなくても。


「ひぎいい❤」

 うれしそうだからいいか。


 何が問題なのかと言わんばかりに、スフィンクスは襲いかかってきた。


 チサちゃん陣営に控えていたドラゴンが、重い腰を上げる。

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