第19話 魔王のマナ、発動!

 チサちゃんのマナだって、各土地にリソースを割いて分配している。ここの薬草が育ってないのは、まだチサちゃんの力が弱い証拠なのだ。


 ボクは気づく。チサちゃんの力を過信していたと。


「手を貸して、ダイキ」

 チサちゃんが手を差し伸べる。


 ボクはチサちゃんの後ろであぐらをかいた。


 薬草を土に植え直し、チサちゃんがボクの膝上に腰を下ろす。


「何を、する気なんだ?」


 エィハスさんが、ボクたちを不思議そうな顔で見ていた。


 ボクたち二人は、重なり合った仏像みたいな状態になる。


「薬草に、わたしのマナを注ぐ」


「あんたの? むっ!」

 エィハスさんが背中の剣を抜く。


 ボクたちの前に、エルフのゾンビが立ち塞がる。

 エルフは弓を構えて、ボクたちを射貫こうとしていた。


 薬草の修復に力を使っていて、ボクたちは動けない。


「おそらく、ヤクソウモドキが広がった原因」

 意識を集中しながら、チサちゃんが言う。


 ヤクソウモドキを退治しようとして、返り討ちに遭ったのではないか、とのことだ。

 エルフの持つ強いマナが、ヤクソウモドキの成長を促してしまったのでは、と。


「今この人は、ヤクソウモドキに意識を乗っ取られている」


「コイツは私に任せな!」

 ゾンビエルフが放った弓を、エィハスさんが斬り捨てた。


「はあ!」

 返す刀で、エィハスさんがゾンビエルフの心臓を突く。


 一息だ。

 たった一息で、エィハスさんはゾンビエルフを倒した。

 強い。


「ありがと、エィハス」

 チサちゃんが、エィハスさんに礼をいう。


「私のコトはいい。それより薬草を」


「分かった」

 手を胸の前で重ねながら、チサちゃんが祈った。


「お、おお?」


 身体から、力が抜けていく感覚に襲われる。

 自分を見失う恐怖が少し、あとは、マラソンを走りきったような快感に似ていた。


「はあああ」

 ため息が漏れる。


「大丈夫、ダイキ?」

 心配そうに、チサちゃんが声をかけてくれた。


「平気だよ」

 眠たげな声で、ボクは答える。実際少し眠い。


「ん、これは?」


 目の前で不思議なことが起きていた。


 元気がなかった薬草が、ピンと育っている。

 抜いてみると、根もしっかり張っていた。

 これなら、使えるかも知れない。


「よかったね。チサちゃん」 


「ダイキが来てくれたおかげで、リソースは特に考えなくてもよくなった。感謝」


 今のが、魔王の力なんだな。


 チサちゃんが、栄養が詰まった薬草を引っこ抜く。


「これを持っていって。わたしたちは、他の仕事があるから」


 山にマナを送り込んだせいか、ヤクソウモドキも全滅している。

 一人で下山しても、大丈夫だろう。


「二人ともありがとう。この借りは必ず返す」

「急いで」


 薬草をチサちゃんから受け取り、エィハスさんは山を下りていく。

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