第20話 エィハスの実家

 薬に使えそうな他の薬草も摘んで、ボクたちも下山した。

 これだけあれば、依頼は達成しただろう。


 ルセランドの街が見えてくる。


「おーい、二人ともウチに来てくれ!」

 笑顔のエィハスさんが、走って迎えに来てくれた。

 経過は良好のようだ。


 エィハスさんの家は、料亭をやっている。


 店に入っただけで、料亭独特のいい香りが漂う。

 匂いだけで、この店の料理はうまいと分かった。


 魔王城の料理もおいしい。

 だが、ここも違うベクトルでうまいのだろう。


「ウチは料理屋なんだ。夜は、冒険者の酒場も兼ねている。私の仕事は主に狩猟だ。料理ができない女は、獲物を獲る役目を与えられる」


 食材になる野生動物を、自慢の剣で狩ってくるという。


 中に入ると、元気な男の子が部屋を走り回っていた。

 彼が薬草で元気になった子だろう。


「ありがとうございます!」

 エプロン姿のバニングおばさんが、何度も頭を下げた。

 隣にいる息子さんも、ペコリと頭を下げる。


「とんでもない。仕事のついでなので」

 お礼すら受け取らず、チサちゃんはギルドへ薬草を届けに行く。


「待ってくれ」

 店から出てきたエィハスさんが、ボクたちを呼び止めた。


「アンタ、魔王チサ・ス・ギルだよな?」

「いかにも」

「やっぱりそうか、あんな奇跡を起こせるのは、アンタを置いて他にいない。本当に感謝する」


「好きでやっただけ。感謝はいい」

 あくまでも、チサちゃんは謙虚だ。


「この度は世話になった。私にできることがあったら、なんでも言ってくれ。いや、ください。召使いでもなんでもします。飯は作れないが、皿洗いくらいなら」

 チサちゃんに、エィハスさんがひれ伏す。


「そんな関係は望んでいない」


「待ってくれ。それじゃ私の気が収まらねえよ」


 申し出を断られても、エィハスさんは食い下がった。


 うーん、と、チサちゃんは考え込む。マジの善意一〇〇%で助けちゃったようだ。


「どうしてもというなら、仲間になって」


「配下じゃなくて、仲間でいいのか?」

 意外な回答に、エィハスさんは困惑した。


「いい。お友達の方が、頼みやすい」


「分かった。じゃあ、アンタと私は、ダチってことで」

 エィハスさんが、サムズアップをする。


「それとダイキだっけ? アンタも私のダチだからな」


「えっ、だってボクは何もしてないよ?」


「チサさまの……コホン、チサのダチなら、私のダチさ」


 太っ腹な意見をくれた。


「ありがとう。お願いするよ」


「そうだ。私とフレンド登録をしよう」


 冒険者は、フレンド登録しておくと、フレンドが依頼を受けたときに同じ依頼を受信できるそうだ。受注するかは任意で決めていい。


「カードを見せてくれ」

「はい、どうぞ」

 

 ボクがカードを差し出すと、エィハスさんが羽根ペンで自分の名前を書く。


「このペンでカードに名前を書くと、フレンドと認識されるから。やってみるといい」


 ボクも、エィハスさんのカードに名前を入れた。


 カードの裏にある空欄に、新しく名前が刻まれる。特殊な魔法で刻印されているらしく、指でこすっても消えない。

 便利な機能だなぁ。


「堅いこと言うなよ。今度ウチに遊びに来てくれ。うまいもん食わせてやる。と言っても、作るのはオフクロだがな! がはは!」


 豪快に、エィハスさんが笑った。やはり、彼女には笑顔が似合う。


「唐揚げはある?」


 チサちゃん、真っ先に聞くことそれなんだ。


「もちろん! オフクロの唐揚げはチューリップっつってな、骨付きなんだ。うまいぜ」


「チューリップ大好き!」

 うれしそうにチサちゃんがバンザイする。

 将来、お酒呑みになりそうだね。


「ご馳走になるよ! じゃあさよなら!」

「元気でな! 旅をすることがあったら行ってくれ! 護衛になってやる!」


 エィハスさんと約束して、ギルドへ。

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