第17話 女戦士エィハス

 オルエーの森に入って、薬草を採りに行く。

 傾斜がきつい。おまけに草ボーボーの道だ。


「はあ、はあ。キツいな、コレ」


 ボクはナタを振り回しながら、草を刈って歩かなければならなかった。日本の山がいかに整備されているかを思い知る。


 獣道なんてレベルではない険しい道を、チサちゃんはズンズンと進む。


「置いていかないで」


 山なんて子どもの頃依頼、久々だ。情けなくボクはチサちゃんについて行くのがやっとである。


「モンスターとかが出ないだけ、まだマシか」

 もっと襲ってくると思っていたが。


「この道が、一番安全」

 チサちゃんが、ボクに気を遣ってくれていたらしい。


「ゴメン。ボクが助けたいだなんて言い出したばっかりに」

 ワガママを言ったんだから、ボクの方が弱音を吐いてちゃいけないよね。


「それはいい。わたしも助けたかったから」

 ふと、チサちゃんが立ち止まった。

 地面にしゃがみこんで、辺りを窺っている。


「モンスターが倒された痕跡がある」


 狼型の怪物が、横向きに倒れていた。

 その付近には、小さい鬼もうつ伏せになっている。

 どちらも、息をしていない。


「死体に見向きもしていない。多分、薬草だけを目的にした冒険者が近くにいる」


 普通、冒険者はモンスターを倒して、その素材を得て生活している。だが、モンスターは斬られた痕以外はキレイだった。


 たしか、バニングさんの娘さんが、山に入ったって言っていたな。


 薬草が採れるポイントに着いた。


 木々の側に生えている薬草らしき草を、チサちゃんが摘む。

 目が真剣である。目利きは魔王に任せよう。

 素人が手伝ってもロクナ目に遭わないヤツだ。


「お目当ての薬草だけ探すわけには?」

「バニングって人も探している。道すがら、薬草の匂いを嗅いでいる」


 そっか、バニングさんが踏んでいった可能性があると。


「毒を持っている草を踏んだ可能性もある。触っただけでアウトな薬草も、ここには生えている」


 怖いな。だから、毒の草も確認しているのか。


「人の気配がする」

 チサちゃんが、大樹の木陰に向かう。


 草をかき分け、ボクも後を追った。


 追いつくと、チサちゃんが大樹の前で立ち止まっている。


「どうしたの?」

 ボクが声をかけると、チサちゃんは大樹の向こう側を指す。


「そこにいるのは冒険者か?」


 赤い髪の女性が、目にクマを作って倒れていた。

 全身をピッチリした赤いインナーで覆い、その上に重そうな鉄の鎧を身につけている。

 肩に担いでいる剣は、女性が持つにしては分厚い。


「大丈夫ですか?」


「このくらい、どうってことない。私はエィハス・バニング」


 見つけた。この人が依頼人の娘さんだ。

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