第16話 冒険者ギルドへ

 最後に冒険者ギルドへ行こうと、チサちゃんがボクの手を引っ張った。


 だから、チサちゃんは冒険者風なんだ。


 西部劇で見るような、木製のスイングドアを抜ける。


「いらっしゃいませ、チサ様」

 受付嬢が、メガネを直す。


 ネコミミだ!

 いかにも異世界に来たと実感させられる。


「どのようなご依頼でしょうか」

「登録しに来た。この男の身分証を作りたい」

「承知いたしました。では、こちらに必要事項をお書きください」


 おお、ボクも冒険者か。

 腕っ節に自信はないが、足を引っ張らないようにしよう。


「えっと、ダイキ・オサナイ様で、職業は、ギョギョギョ、玉座!?」


 ギルド内が急にざわつく。


「玉座だってよ」

「マジか、トップクラスのジョブじゃねーか!」

「とうとうチサ様にも玉座が」

「ゴツいな」

「目を合わせないようにしようぜ」


 冒険者たちが口々に勝手なことを言う。


 玉座ってそんなに最上級ジョブなの?

 でも、ナメられて勝負をふっかけられるよりはマシか。


「仕事はない?」

 チサちゃんが、受付嬢に話を通す。


「魔王さまに頼めるお仕事などは」

「じゃあ、玉座の分でいい。レベル一だから、簡単なヤツで」

「かしこまりました。ではオルエーの森で薬草取りなどはいかがでしょう?」


 壁のコルクボードに張られていた依頼書を、チサちゃんが剥がす。


「これなら簡単。夕方までには帰れる」


 出て行こうとしたら、一人の女性が、ギルドに駆け込んできた。



「お願いです。息子を助けてください!」



 町人は、チサちゃんに懇願する。


 ギルドの受付嬢が、事情を引き受けた。


 町人の話は、要領を得ない。


 受付嬢は要点を絞って、話をまとめる。


「こちらにいらっしゃるバニングさんの子どもが、重い病気になってしまったそうです」


 治すには、レアな薬草が必要だとかで。

 大きな街へ買いに行っても高い。


「娘が冒険者で、自分に任せろって薬草を採りに行きました。だけど、帰ってこなくて」


 助けてあげたかった。けれど、ボクに何ができるのか。


 ボクの目を見たチサちゃんが、コクリとうなずいた。


「分かった。急いで採ってくる」

「チサちゃん」


 ボクの考えを読み取ったのだろうか、チサちゃんの行動は早い。


「お願いします!」

 バニングさんが、何度も頭を下げる。


「ダイキ、これから薬草を採りに向かう」

「うん。ありがとうチサちゃん」


 チサちゃんは、この人を助けたいという、ボクの気持ちを汲んでくれた。


「ボクにできることは?」

「今はない。まず土地に慣れてもらう」

「分かったよ。足を引っ張らないようにするね」



 いよいよ、初めての冒険に旅立つ。

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