第14話 世界を間借り

 いわれてみれば、チサちゃんは可愛さの中に、妖艶さが漂う。


 しかし、ボクはどちらかというと、父性が勝った。

 チサちゃんと変な関係になりたいとは思わない。


「チャームに耐性があるのも、あなたが選ばれた理由です。他の玉座候補たちは、チサ様を性的な対象として見ていました」


 案外、女の子はそういう視線に敏感である。年齢を問わず。


「マナは強かったのですが、性格や性欲に問題が多すぎて。本人たちも自覚していましたたので、お引き取り願いました」


「そうでしたか」


 ボクがここに呼ばれた理由の中で、一番納得できた。

 それは、ボクにしか無理だろう。


「あと、気になったのは、意外と質素なんだなってことですかね」


「そうおっしゃると、思っておりました」

 期待していた答えが来たと言わんばかりに、セイさんは顔をほころばせた。


「チサ様は魔王の中でもめずらしく、倹約家なのです」


 普通はもっと『支配してやるぞ!』という気満々で侵略行為を行う。


 けれども、チサちゃんは『自分だけ潤っても仕方がない』と、あまり手を広げすぎない。


「民を潤わせれば、勝手に資産が増える、それがチサ様の経営理念です」


『まず村人ありき』と考えているようだ。


「この世界も、元々魔王がいたんですよね」

 ボクは、頭にあった可能性を、セイさんにぶつける。


 チサちゃんは興味がないのか、ずっとカボチャのパイを食べていた。

 よほど疲れたのだろう。

 オレンジジュースを飲んで、即爆睡する。


「そうです。なぜ、そう思われたので?」

「この土地で働いている人々って、先住民ですよね? 人間まで作ったわけじゃないんでしょ?」


 もし、そうではないとしたら、あの農民たちも、チサちゃんの創造物だと言うことになる。

 

 だが、そんな気配はしなかった。


 彼らには血が通っていて、自分の意志を持っている。


「その通りです」

 ならば、元々あった世界に、チサちゃんを送り込んだわけだ。


 ということは、前にも魔王が住んで、発展させた形跡だってあるはず。


「前の魔王は、随分と前に亡くなりました」


 だから、土地が痩せ始めていたらしい。

 その魔王が築いた文明も、森の中に沈んでいるという。


「土地再生は、あなたがくるまで本当に大変でした」


 マナの質は高いがすぐガス欠になるチサちゃん、進まない土地再生、住民の不満をなだめる秘書のセイさん。


 魔力回復装置である玉座の存在が急がれた。


「あやうく、世界が崩壊するところでした」


 そこまでだったのか。


「たった数年でここまで発展したのは、奇跡なのです。チサ様のがんばりあってこそでした。人を集めて働き口を増やし、領土を豊かにする。それがチサ様の願いなのです」


 チサちゃんは、どこまでも人のことを考えていた。


「ボクもお手伝いさせてください」


「よろしくお願いします。あら? うふふ」

 セイさんが微笑む。


 ボクの決意に答えてくれているのだろう。

 寝ていながらも、チサちゃんはボクの手を握ってくれている。


 ボクも握り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る