第13話 チサちゃんはサキュバス

 入浴後、夕飯になった。

 カボチャのパイが中央の皿に置かれ、他は豆のサラダ類である。


「お肉欲しい」

 珍しく、チサちゃんがワガママを言う。

 こんなことを言う子じゃないはずなのに。


「チサ様、今日は村で唐揚げをお召し上がったばかりだとお聞きしました。なので、今夜は野菜中心のメニューにいたします」


「うーん。まあいっか。いただきます」

 特に執着せず、チサちゃんは黙々とパイを頬張る。

 すぐに「おいしい」と機嫌を取り戻した。


「安定供給はなさているので、お肉を出せないわけではないのですが、今のうちに好き嫌いをなくしていただこうと」


 野菜メインの献立は、そういう意図があったのか。


「まだチサ様は小さいので、たまにああいったワガママを言うのです。些細なことですが」


「健康な証拠ですよ」


 これでイライラしていたら問題だが、チサちゃんの表情を見ていると、「ただ言ってみただけ」の印象を受ける。


「お疲れさまでした、ダイキ様。何か、不備はございましたか」

 そう言い、セイさんはボクの側に座った。

 チサちゃんのサラダをより分ける。


「とんでもない。みんないい人ばかりでした」


 農家の仕事なんて、久しぶりにやったけど、いいリフレッシュになったと思う。

 身体を動かすと気持ちいいだなんて、久しく忘れていた。


「そうでしょう。他にご意見などは? 例えば、お城の外観を見て、何かをご想像なされたのでは?」

「そんな、やましいことなんて」


 たしかに、いかがわしいお店っぽいなとは思ったが。


「やましい場所を連想なされたのですね?」

 うっとりした瞳で、セイさんは耳元まで迫ってくる。



「駐車場さえあれば、ラブホテルっぽいな、と思ったでしょ?」



「ま、まあ」


 また、考えていることを当てられた。車の存在まで知っているなんて。


 セイさんは、ボクの心を読んでいるのか?


「そう思われても仕方ありません。チサ様はサキュバスですから。お母さま同様に」


 チサちゃんの母親である先代魔王は、地球以外にも多くの世界に子を送り込んだ。


 しかし、その子たちは自分たちの種族を継承しない。

 サキュバスの子でも、ドラゴンが生まれたりすることもあるという。


「膨大なマナを持つ魔王故、ノイズが混ざるのです。が、皆愛されているのですよ」


 大変ではあるが、チサちゃんは追放されたわけじゃないし。

 自立できるからと、魔王が手放したのだから。


 待てよ、サキュバスってコトは。

 

 ひょっとしてボク、骨抜きにされちゃうんじゃなかろうか。


「ご安心ください。実際、興奮なさらないでしょ?」

「はい。確かに」

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